【短編】ストーリーライター
犬飼 大
お前の人生を俺は書く。
外を歩く時、俺は神だ。
あの若妻にはこんな物語が似合いそうだ。
『私はいま、幸せを噛み締めている。初恋の人とは結ばれなかったけれど、優しくて仕事も安定している人と結婚できた。その上かわいい我が子も私の腕の中で眠っている。
幸せだ。私は幸せなのだ……。』
始まりはこれでいい。あらすじは夢に敗れた少女が自己保身のために幸せを騙る。
そんなところか。
あそこのソファーでだらけている中年はどうだろう。
『俺は日々の喧騒に耐えられなくなった。虚無感に支配されたのだ。毎日毎日朝早く起きて会社へ行き、部長に怒鳴られて家に帰る。そこに笑顔の妻子は居らず、冷ややかな視線だけがおかえりと語っている。
頭がおかしくなりそうだった。だからもう、終わりなんだ。天国なんていう場所は、さぞ笑顔で溢れている事だろう。』
なんだ、つまらない物語にしかならないじゃないか。
勝手に押し付けた物語に悪態を吐きながら思う。
こんな気持ちの悪い趣味を持ち始めたのは、いつ頃からだろうか。
小さい頃から物語を考えるのは好きだったけれど、それが他人に向くなんてことは全くなかった。
……そうだ。高校三年生の春だ。
進路を本格的に考えろと教師に急かされてから、僕は物書きになりたくて仕方がなかったのだ。
それからは物語を書いては新人賞に応募したり、トレンドに乗っかった物語をカクヨムに晒したりと、四苦八苦していたのだ。
それでも、現実は冷たく俺を突き放した。
だから俺は他人の物語に勝手に汚点を付け足して、悦に浸っていたかったんだ。
【短編】ストーリーライター 犬飼 大 @sakaraka_santya1
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