第11話☆
「おーい!起きろー、朝だぞー」
「んー」
洲崎の快活な声で目が覚めた。
目覚まし時計の鬱陶しい音に比べると大分ましだ。
そのお陰か、以前より朝が苦手じゃなくなった気もする。
真澄はコーヒーメーカーで淹れられたコーヒーを飲みながらトースターでパンが焼き上がるのを待つ。
コーヒーメーカーもトースターも、もともと真澄の家にはなかった物だ。
調理家電だけではない。
アイロンやスティック掃除機などもいつのまにか洲崎が家に持ち込んでいて、今となってはフル活用されている。
(こいつ次から次に家電持ってくるけど、自分の家すっからかんになってるんじゃねぇか…?もしくは財布がすっからかんとか…?)
世話をしたいと言ってきたのは洲崎の方だが、毎日のように我が家にやってきては、かいがいしく世話を焼く姿に、さすがの真澄でも心配になる今日この頃だ。
「この間、得意先の人からもらっためずらしいバターがめちゃくちゃ美味しくてさ。お前にも食べさせてやろうと思って」
いつの間にか洲崎はゴミ捨てのない日も来るようになり、最近では洲崎も一緒に朝食を摂るようになった。
「ん。まぁまぁ美味い」
「だろ?お前、ジャム派じゃなくてバター派だもんな」
今では当然のように真澄の嗜好は把握されている。
おそらく嗜好だけではなく行動パターンまで把握されているが、おかげで日常生活はだいぶ快適になっている。
「俺、今夜は接待だから。夕飯は冷蔵庫に用意してあるからチンして食べろよ」
「めんどくせぇ」
「チンするだけだろ」
「そのチンがめんどくせぇんだろ」
「頑張れよ、応援してやるから」
「勝手に応援すんな。てか接待の途中で抜け出してチンしてまた戻れよ」
「あぶな…ここから割と近い場所だし出来ないことも無いな、とか考えてる自分がいたわ。さすがの俺もそこまで世話焼きはじめたら病院連れてってくれ」
「一人で行けよ」
「なんだよ、つれないな」
洲崎が出入りするようになってから、平日の朝食と夕飯を一人で食べることはほぼなくなった。
仕事で忙しいはずだが、なんやかんやで毎晩のように会社帰りに寄って夕飯を作ってくれる。
そして食べた後は終電に間に合うように帰る。
どうせ朝にはまた来るんだから泊まったほうが良いんじゃないか、と思ってはいるものの、それを言ってしまうと全面的に洲崎に心を許しているように思われそうなので口には出さないでいる。
でも、洲崎から泊めてほしいと懇願された場合には泊めてあげなくもない、と思う。
「ほら、そろそろ会社行くぞ」
「うるせぇ」
いつものやり取りをしながら、二人は玄関を出た。
*****
「やった!ハンバーグじゃん」
仕事から帰って冷蔵庫を開けた真澄は一人、歓喜していた。
大好物を冷蔵庫から大事に取り出すと、電子レンジで温める。
めんどくさい、とは言ったけれどハンバーグとなれば話は別だ。
ご丁寧にもきちんと別皿に用意されていたご飯とサラダも共にいただくことにする。
「ハンバーグ最高」
洲崎の作る料理はおいしい。
悔しいがそれは認めざるを得ない。
最近ではタダで食べるのが申し訳なく思えて、食費をいくらか渡そうとも考えている。
しかし、そうしてしまうと真澄が食事を作ってほしいと思っているように見えるので、それは避けたい。
あくまでも洲崎に脅されて仕方なく、な雰囲気を出したいのだ。
洲崎お手製の夕飯を食べ終え、いつものビールを飲みながらテレビを見る。
すでに風呂に入ってリラックスした上にアルコールが入ると、自然とまぶたが落ちてきた。
(ちぇ。あいつ結局来なかったじゃん。チンしに来るかと思ったのに。変態家事フェチ野郎失格だな…まぁ、どうせ明日も来るだろ、って明日は土曜だから来ないか。なんだ、つまんねぇの…)
眠りに誘われている頭の中でぼんやりと思う。
(つまんない?つまんないのか…?)
洲崎がいなくてつまらない、ということは洲崎がいるとつまらなくない、ということか。
(そんな訳ない…ちくしょう、これか。胃袋掴まれるというのは…でもハンバーグ明日も食べたいな)
「佐野、遅くにごめん…ってもう寝てるのか。申し訳ないけど泊まらせてくれ」
(洲崎?なんでいるんだ…って夢か。リアルだな…まぁ、夢なら今日だけ特別に泊まらせてやっても良いけど)
「あ、チン出来てるじゃん。偉かったな」
(お前がチンしに来なかったせいだからな!偉かったな、じゃねぇよ。もっと詫びろ、そして褒めろ)
「偉い、偉い。って、はは。寝ながら笑うとか赤ちゃんかよ。てかまた座布団で寝てるし、またパンイチだし。本当に服着るの嫌いなんだな」
(赤ちゃんって誰だよ。てか泊まらせてやってるんだから家主の格好に文句言うなよな…)
「風呂入ったら起こしそうだし、俺もパンイチで寝るしかないか。家主が雑魚寝なのにベッド借りるのもなぁ…お隣失礼します」
(しょうがねぇなぁ、今日だけだぞ)
「おやすみ、佐野」
(ん、おやすみ…)
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