国賓2-1
□
王城。
エミール王太子の執務室にて。
「…………」
あがってきた報告書の一枚が、王太子の不動の表情を険しいものに変える。
エミールは傍近くで共に政務を処理する少年執事に、問いを投げた。
「どう思う、
「帝国の表敬訪問の一件ですか? それでしたら断る理由など」
「いや、そちらではなくてだな」
「うん? ……ああ、ガブリエール嬢の屋敷にたびたび訪れている“ご来客”ですか?」
王との謁見、あれからひと月の時間が経過した。
エミールとガブリエールの婚約は国王の名のもとに、盛大に布告され、
そんなガブリエールの世話役、兼、身辺警護にあたるメイドたち三人から上がる書類には、日々凶悪な魔族を昼と夜を問わず征伐している事実が羅列されている。
少年執事サージュはあっけなく告げる。
「魔族調伏の魔法に秀でた術師の
「だろうな。だが、一番の問題は、その背後に控えているものがいることだろう」
サージュは小さく頷く。
「こんな大それたことをやれるものは限られている。何より、王国の国境警備隊には、魔族の侵攻は確認されていない」
「にもかかわらず、この量ですか」
少年執事が王太子の手から渡された書類の束には、あきれ返るほどの魔物の名が列挙されており、その討伐時刻と個体数に至るまで、事細かく記録されている。
「ガブリエールの警護を、あの三人に任せて正解だった」とエミールは改めて思う。
元々はエミール直属の親衛隊に属していた女性衛士たち。戦場でエミールと共に勇を馳せた戦乙女ら。
各人のその腕前は、軍内部においても特筆すべきものであり、魔法に秀でるジュリエット・オルヌ、剣術に秀でるクレマンス・スュール、暗器に秀でるシャリーヌ・ユイズヌは、それぞれが得意とする方面においてのみ見れば、エミールの実力を上回る。故にこそ、王太子の招請によって、メイドとしてガブリエールの警護兼世話役を任されたわけだ。
だが、
「あの三人の手に余るような事態になるようならば、いっそガブリエールを王宮に招いてしまった方が……」
「それも手ではございましょうが、王がどんな顔をなさるか」
言われなくても想像がつくエミール。
しかし、実際問題として、ガブリエールの安全には代えられないとも思考する。思案できる。
「うーん……うん?」
エミールは沈思の檻の中で、外が騒がしいことに気が付いた。
何事だと思いつつ耳を澄ますと、幼い頃から聞き知った高音が廊下の奥からこちらに向かっているのが分かる。
「サージュ。第一皇女の表敬表門予定は?」
「本日正午ですが──到着予定時刻は、まだ二時間あとのはず」
まさかと思いつつ、書類を一通り決裁し整理し終えると、
「お久しぶりね、エミール!」
ノックもせずに扉を開け放った淑女(自称)は、傲岸不遜を絵に描いたような腕組みの姿でそこに
勝気な金髪紅眼。
身に纏う金銀の装飾品。
自由奔放な赤い肩出しドレス。
男を篭絡してやまぬ
帝国第一皇女、マリィ・ピオニエ・ランブランは高笑いを浮かべながら
「さぁ! 会わせてもらおうじゃないかしら! エミールが選んだ婚約者とやらを!」
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