謁見2-1
□
「どういうことだ、サージュ!」
「どうもこうも……国王陛下からのご命令ですから」
王宮の私室で、エミールは怒声を張り上げるが、それに対する少年執事は、扉の前から頑として動こうとしない。
王太子は己の権限でもって、幼少期より変わることなく王族に忠節を尽くすハーフエルフに
「それは、国王陛下の命令で止められておりますので」
これである。
「ならばせめて親父、国王陛下に
「それも陛下より止められておりますので」
「なんでだ、クソ!」
八つ当たりに机を殴り叩くエミール。
「クソ、親父のやつ、ガブリエールを品定めでもしようというのか?」
十中八九そうだろうと少年執事は片眼鏡を拭いて平然と頷く。
「何しろ第一王子、立太子であるエミール坊ちゃま、失礼、王太子殿下が選んだ婚約相手です。一目会っておくことは、父親として当然の義務であり権利では?」
「俺はまだ! 国王と彼女を合わせる時期でないと! そう考えていたんだ!」
遅かれ早かれと思っていたが、まさか父がここまで強行的にガブリエールの召喚を行うとは、
「まさか、親父の奴、強引に婚約をなかったことにはすまいだろうな?」
「殿下が持っている婚約内定の書状を受理しなければ、あるいは」
内定の書状は、いまもまだエミールの手元にあって、大切に保管されている。
だが、これに否を突きつける権力が、国王には備わっている。
「ああ、せめてガブリエールと連絡できれば……」
それも、王命によって厳重にとめられている。
サージュは片眼鏡をかけなおし、逆に質問してみる。
「殿下は何を恐れているのです」
「恐れだと?」
これが恐れずにいられるかと、エミールは声を荒げた。
「ガブリエールは貧家の娘だ。いくらジュール伯が後見人についてくれようと、王の眼鏡にかなわなければ……」
それですべてが終わってしまう。
彼女との関係を維持することは不可能になるだろう。
……いや、いっそのこと彼女を連れだして逃げ出してしまおうかと本気で思案をのぼらせるエミール。
そうして机に突っ伏して暴挙を企てかける王太子に対し、爺たる少年は「思い詰め過ぎ」だとたしなめる。
「少しは御父上を、国王陛下を信用なさってはどうです? 案ずるより何とやらとも申しますし?」
「だが、今のガブリエールは、……」
国王と謁見できるだけの用意があるとは思えない。
彼女の舞踏会での衣服を思い出す。質素堅実を地で行く──というか、祖母の形見のあれ一着のみと聞く。
こんなことならもっと早急に最新のドレスやら流行の宝石やらを送っておくべきだったろうかと後悔にくれるが、もはや後の祭りというもの。
さらに、サージュに調合を依頼した塗り薬も昨日ようやく届けられたばかり。
とてもではないが、王族の気に入る外敵要因からは程遠い。
「──殿下」
「……なんだ、
「──私が受けた王命の中に『私からガブリエール嬢に、殿下の言伝を届けてはならぬ』というものは入っておりませぬ」
「……本当か、それは?」
エミール王太子は黒い瞳を輝かせて、純白のメモ用紙に、急ぎペンを走らせた。
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