BAD END NO.1 フィクションの物理法則
なんだ……これは……。
瞬き一つすらせずこっちを見つめている琥珀は固まったまま動かない。どころか、車の音や鳥のさえずりといった日常の音もぱたりと消えた。まるでゲームのポーズ中かのように世界が静止している。
……いいや違う。漠然とだが状況は理解できる。ここが『灰色の恋模様』であり且つシステムも
そう――選択肢だ。1、2とご丁寧に分けられているところからしてまず間違いないはず…………問題は、
「こんな初っ端から選択を求められたっけ? というかこんな選択肢あったっけッ⁉」
原作とは異なる記憶にない展開という点だ。
『灰色の恋模様』の序盤は主人公の人間性・スペック、ヒロイン達との関係性等を会話や心情で把握する為の謂わばチュートリアルのようなものだった。プレイヤーは文字を目で追うだけで、選択を迫られるのはもう少し先だった……それなのに。
1・「どうしても日の出を拝みたかったんだ。君と比べてどちらが美しいかを知る為にね……結果、君の方が美しいとわかったよ。あぁ……琥珀と付き合えたならどれだけ幸せなことか」とさりげなく告白する。
これは――ふざけているとしか言えないッ!
まず第一に1の内容――セリフが恥ずかしい上に初っ端から告白なんて作風ぶち壊しにもほどがある。そりゃ告白から始まる物語はあるよ? でも『灰色の恋模様』はゆっくりとけれども着実に進んでいくストーリーなんだ!
同時に優柔不断な主人公の成長の物語でもある。つまり、現時点の鏑城雅也に告白できる勇気などないってことだ!
俺だったら絶対に1は選ばない。ただそれはもう一方が真面であればの話だが……。
2・「どうしても日の出に拝ませたかったんだよ。俺の自慰行為をね……結果、朝の陽光を浴びてのオ〇ニーが言葉に表せないほど気持ちい良いことがわかったよ。あぁん……琥珀の穴を突けたのならどれだけ幸せなことか」と大胆に暴露する。
2は論外だ。ネタ的な選択肢なんだろうがセンスがない。ただただ寒い。
最善は選択しないことなのだろうが……どうやらそれはできなさそうだ。
俺の立ち位置を軸として、前方の空間に浮かんで表記されているそれぞれの文章。左が1、右が2となっているが、視線がそのままカーソルになっているようで、今見ている1の文章が淡く発光している。
反対に右を向けば2の文章が発光。境目に視線を送ると左右交互に点滅しルーレットみたくなる。
更にその上、30から始まった数字がカウントダウンを刻々と刻んでいる。
あの数字が0になったタイミングで視線を向けていた方が選ばれるのだろう。
くっ、残り5秒か…………仕方ない――消去法だッ!
俺が左の1に視線を向けた矢先、静止していた世界が再び動きだし、
「どうしても日の出を拝みたかったんだ。君と比べてどちらが美しいかを知る為にね……結果、君の方が美しいとわかったよ。あぁ……琥珀と付き合えたならどれだけ幸せなことか」
意思に関係なく気障ったらしいポージングを取った俺の口から、勝手に1のセリフが流れた。
「…………………………はわ……はわわわ」
ポカンとしている琥珀はしかし、すぐに言葉の意味を理解したのか顔を真っ赤に染め上げる。
――そして、
「――も、もう! 揶揄わないでよ雅也ッ!」
間合いを詰めてきた琥珀が照れ隠しの為であろう平手打ちを繰り出してきた。
その手が俺に届く直前――刹那の思考。
琥珀がなんちゃって怪力ヒロインであることを俺は思い出す。作中でもよく、雅也が吹っ飛ばされていたっけ。
フィクションだから壁にめり込んでもギャグで済まされてたけど……俺の場合はどうなるの?
「――――ぶおわあッ⁉」
その解を俺は身をもって知ることに。
華奢な腕のどこにそんな力があるのかと問い質したくなるレベルの勢いで吹っ飛ばされた俺の体は、中空をフィギュアスケーターのように舞い、自室の白い壁が目に映ったのを最後にプツリとブラックアウトした。
BAD END NO.1 フィクションの物理法則
――――――――――――。
「……………………え?」
何故か瞼を開くことができる驚き以上の光景……前方には固まったままの琥珀と、それから――左右それぞれに2つの文章が空間に浮かんで表記されていた。
「戻って……る?」
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