第16話・ニつ目の詩篇、答えは出たも当然

──ガバッ!!

「うわ、完全に寝坊した!!」

 

 今日はサボれないゼミがある。

 そのために昨日は0時を回ったら、速やかに寝る準備をしたんだよ。

 ヘッドセットをつけっぱなしにして寝落ちすると危険だから、先に安全エリアでログアウト。

 そのあとは眠くなるまで、パソコンで二つの詩篇についての情報集め。


 そして気がつくと、朝。

 座椅子に身体を預けて、斜めに寝崩れていました。


 だってさ、【R・I・N・G】クエストが解放された当初よりも、ヨル観のクエスト情報掲示板やまとめチャンネルにいくつもの詩篇がアップされ始めたんだよ。

 それは何故か?

 理由は簡単で、詩編のヒントを手に入れたところで、自分が進めているクエストがそれでない場合、全く意味がないから。

 それならば、堂々と詩篇を公開して、それらについての情報をまとめた方がクエストを早く終わらせられると判断した有志たちが、公開に踏み切ったんだ。

 その結果、誘発されるように詩篇が次々と流れてきて、今では詩篇の数は100パターンを超えていた。

 まあ、相変わらず足を引っ張るやつの方が多いんだけどね。


 さらに二つの詩篇の組み合わせとなると恐ろしいほどのパターンとなり、とんでもない数のクエストが発生していることになるんだが。


『ピッ……ダガー・オブ・メイルシュトロームについての情報を求む』

『ピッ……必要なのはレシピ。それさえあれば作れるし、俺は作ったが』

『ピッ……お前、辺境の大和伝だな?? 特定した。材料を何が必要だ?』

『ピッ……甘い、甘すぎる。大和伝に頼まなくても、レシピをNPCに渡せば、クエストを受けている人は必要な素材が表示されるのをご存知かな?』

『ピッ……俺に必要なのはメイルシュトロームじゃないようだ。作ってみたがクエストが進まない。宵闇のカラス、明けの鳳凰ってなんだ?』

『ピッ……知らん。ggrks』


 メイルシュトロームの情報が流れているのに気がついてね。

 それをメモしているうちに眠くなって、気がついたらパソコンの前に沈んでいたんだよ。


「さて、シャワーでも浴びてから、ひさしぶりに大学に行きますか。研究室の連中は、元気にしているのやら」


 熱いシャワーで体を目覚めさせ、昨日半分だけ食べた卵サラダサンドを胃の中に流し込む。

 そしてゴクゴクと牛乳を、腰に手を当てて飲んで、いざ、出勤ならぬ登校。


………

……


「ふふん」


 午前中のゼミは終わり。

 午後からは個別に研究室での実験らしい。

 ちなみに私と明日花は免除、二人で共同で研究した分野の応用なので、私たちは出番なし。


 そのまま研究室の分室を借りて、そこでヨルムンガンド・オンラインの話を開始する。

 何故、この部屋かと言うとだね。


「ほい小町ちゃん、これが私のパーソナルカードだよ。これをここに刺して読み込ませるんだよね?」

「そういうこと。私はこっちのスロットを使わせてもらうね。さて、読み込ませたら始めますか」

「いぇあ〜!!」


 分室のそこそこスーパーコンピューターには、実はヨルムンガンド・オンラインがインストールされている。

 何故かって?

 私の専攻科目は『脳科学』だよ?

 うちの研究室の漆原教授が、わざわざユメカガク研究所に打診したらしくてさ、交渉の末に研究用コードを4人分も発行してもらったらしくてね。

 そのあとで、パーソナルデータを持ち運べるカードとカードリーダー、そしてヘッドセットを四人分、経費で購入したのだよ。

 別途、ゲーム内映像を映し出すためのモニター端末もユメカガク研究所から送られてきたので、サーバールーム隣の控室に全て配置したということです。

 いやぁ、冷房が効いているから、これから暑い夏が来たらここに籠るのもありだよね。研究のためだよ、遊びじゃないよ。

 多分。


「それじゃあ、私たちはリンクするから。反応がないからって、エロいことするなよ?」

「するなよ!!」


 傍で漫画を読んでいる後輩の女子に、笑いながら釘を刺す。

 まあ、同性だからあり得ないし、男子が入ってこないように部屋はロックしてあるから大丈夫だよね。


「はいはい。貧乳の明日花先輩にも、口がヤニ臭い小町先輩にも興味ありませんから、ご安心を」

「それはそれで、何かムカつく。発展途上なだけだ、この牛乳うしちちっ」

「私、そんなにやに臭いかなぁ……」

「はぁ。先輩たちはもう少しは自覚してください。それに明日花先輩、誰が牛乳ですか!! まったく」


 ふくれっつらの後輩に後を任せて、それてはリンクスタート。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──ハーメルン郊外、ルーゼンベルグ領・オワリ

「さて。私はムルギベルのところに行ってくるけど、アスナはどうするの?」

「私は大和伝さんのところかな? 最初の詩篇、あれの解読の答え合わせをしたいから」

「ふぅん。それじゃあ、そっちは任せるよ、そんじゃいってくるね」


 領主館の裏手にある、鍛治工房。

 表向きには『頑固な職人の店』という噂が流れており、クエストをクリアしないと扉を開く事はできないように、建物を『クエスト重要ポイント』に設定した。

 私は領主でありクエストマスターだから、堂々と扉を開けて中に入れるんだけど、周りの視線がザクザクと突き刺さってくるんだよ。

 そして工房の中、休憩用の広間に向かうと、水をがぶ飲みして休んでいるムルギベルさんを発見。

 いまさらながら、NPCもゲーム世界では生きているんだなぁって、感心しちゃうよね。


「おや、来客かと思ったら、ハルナか。それで、何かいいものが手に入ったのか? 例のクエストで必要な金属はどうなった?」

「それなんだけど……ちょいと待っててね」


 乱丸に領主コマンドで連絡を入れて状況を確認してから、市街地の鍛治ギルドのメニューを開く。

 そこではレア金属の買取を行なっているんだけど、例の五つの金属だけは、買取価格を他の都市の三倍に設定しておいた。

 まあ、懐がかなり寂しくなったけど、これも領主の強みだよね。


──ゴトッゴトッ

 ミスリル、オリハルコン、アダマンタイト、ドラグナイト、そしてナイリア鉱石の合計五種類。

 無事に買い取った鉱石をそれぞれ木箱に納めて、ムルギベルの目の前、床の上に次々と並べる。


「これが、買い取った五つのレア鉱石だけど。これだけあれば足りるでしょう? 結構な量はあると思うよ?」

「ほう、ナイリア鉱石だけは少ししかないようだが、他はそこそこな量が集まっているな。買い取ったと言ったが、そもそも冒険者たちはこれを、どうやって手に入れた?」

「外のダンジョンにいるモンスターのレアドロップだよ。この五つのうち、ミスリル以外の鉱石は鍛治スキルと鉱物スキル、この二つのスキルが7レベルずついと扱えない金属ばかりなんだと。それでアイテムボックスの肥やしにするぐらいならって、買い取った」

「良く、売ってくれたな。アイテムボックスにでも貯めておいて、あとで使えば良いものを」


 そうはいうけどさ。

 アイテムボックスの容量って百二十五スロットしかなくてね。しかも同じアイテムはそれぞれ99個までで1スロット使うからさ。

 鉄のインゴットを貯めておいてても、99個で足りるはずがない。

 結果として普段使いの分を抑えて、あとは【アイテム預り所】なら預けるしかないからさ。

 そこだって、初期は25スロットしかなくてね。

 追加で125スロット枠を買うにはリアルマネー課金だよ?

 【倉庫の鍵】ってのを買わないとならなくてさ。

 私は領主館持ちなので、巨大な倉庫がありますが何か?


 話は戻して、今やオワリは大商業都市。

 大規模討伐クエストのおかげで、人は集まる資源も集る、もうクエストさまウハウハ状態……と言うほど凄くはなく、まあ、そこそこに集まり、そこそこに進んでいる。


「倉庫のレンタルは高いんだよ。まあ、お陰で北方まで寒い中、採掘に向かわなくて済んだけどね。

「なるほどな。こっちは神鉄の炉は完成した、あとは火を入れて早速試してみるのじゃが……」


 そう言うや否や、ムルギベルは魔法で炉の中に火を灯し、燃料をぶち込んで火力を上げ始める。

 瞬く間に炉の中が灼熱に包まれ、熱気が噴き出してきた。


「よしよし、この火力なら、五種類の金属によるダマスカス鋼が作り出せるだろう。それができたなら、いよいよメイルシュトロームの短剣を打つ、それで問題はないな?」


──ゾクゾクッ

 彼の話を聞いていると、背中がゾクゾクしてきた。

 

「問題なし、始めてくれる?」

「うむ。ここからは三昼夜ほど掛かるから、ここは任せてハルナは別のことをしてい来て構わんぞ」 

「そう? それなら任せるよ」


──ゴゥゥゥゥゥゥ

 炉の火力がどんどんと上がっているらしく、室内の気温も高くなっていく。

 ついでに熱気ダメージが入り始めたので、これはやばい。

 

「うわ、あ、あとは任せるからさ」


 慌てて鍛冶場から飛び出し、建物の外に出ると。

 そこでは、私が出てくるのを数名のユーザーが待っていましたが。


「なあ、ここがレア素材を扱えるドワーフの鍛治師の工房だろ?」

「どうやってクエストをクリアしたんだ? 情報が欲しいんだが」

「頼む、【R・I・N・G】クエストに必要なんだ」


 三人の男たちが話しかけてきて、頭を下げている。

 でも、今は作業中なので、ムルギベルは手が離せないんだよなぁ。


「悪い、今、鍛治師には、うちの仕事を頼んでいるんだわ。別の鍛治師に頼めば? ユーザーキャラでも有名な鍛治師っているよね?」 

「いるにはいるんだけど……手数料が高くてさ。それに、普通の武器じゃなく【クエストアイテム】の指定で作らないとならないから。素材持ち込みだし、失敗したら素材が消えるからさ」

「だから頼む、どのクエストかだけでも教えてくれるか?」


 いや、いくら頼まれても、この鍛治工房に入るために設定したクエストは『お使いクエスト』で、ムルギベルの鍛治工房宛の紹介状を、私から貰うだけなんだよなぁ。

 

「いや、そこはゲーマーらしく、自力で頑張るって事でさ」

「はぁ〜、参った。アクエリアスさんに、なんて報告したらいいのやら」

「アクエリアス……ねぇ。貴方たちは、どこかのギルドに所属でもしているの?」

「俺たちは、【黄道十二宮】ってギルドに参加していまして。まあ、どうしてもクエストを進めるために、短剣が欲しいのですよ。それも……と、これ以上はダメだな、それでは失礼します」


 頭を下げて、男たちはこの場を離れる。

 

「黄道十二宮か。確か危険なギルドだっていうことは知っているけど、今の雰囲気なら、どっちなんだろう?」

 

 脅されて仕方なく動いているふうには感じないし、かといって熱狂的信者っていう感じでもない。

 まあ、うちには関係ないから、触らぬ神に祟りなし。


………

……


──大和伝・鍛治工房

 ハルナちゃんと分かれて、私は大和伝さんのもとにやってきています。

 私の調べた情報が合っているのかどうか、その整合性を取りたかっただけなんですけれどね。


「大和伝さん、今、お暇?」

「まあ、休憩中やから暇といえば暇や。何か用事か?」

「うん、ちょいと大和伝さんの【鉱物知識】に頼りたいところがあってね。力をもとい知識を貸してくれない?」


 両手を合わせて可愛らしく頼み込んでみる。

 すると、大和伝さんは腕を組んで唸っているんだけど。


「成功報酬で構わないんやが、俺がアスナさんの知りたいことを教えられたら、うちの建物の裏の倉庫のレベルを、一つ上げて欲しいてハルナさんに伝えてもらえるか?」

「ほいほい、その程度なら了解だよ」

「おっけ。それで、何が知りたいんや?」


 ユーザーが借りれる家や部屋、それに建物ってレベルがあるんだって、ハルナちゃんが話していたんだよね。

 最高は10レベルで、初めにユーザーが借りられるのは、格安の1レベルから3レベルぐらい。そして倉庫がついた店舗や工房は5レベルで、三大都市や王都にしかない上に、高額なのでユーザーが借りる事はほとんどできないんだって。

 それを、ハルナちゃんはあっさりと『5レベル工房付き三階建一軒家』を大和伝さんに貸し出したらしくてね。でも、ギルドハウス機能付きのやつだったので、倉庫は本当に小さくて。

 その倉庫を拡張して欲しいと。

 まっかせなさい、私がハルナちゃんを口説いて見せましょう。

 多分、あっさりとオッケーが出ると思うから。


「鉱石、それも特殊なやつ。紅と白と、風と大地で分かる?」

「はぁ、その話やと、恐らくは属性石のことやなぁ。多分、それで正解やな」

「属性石?」


 初めて聞いた名前。

 でも、大和伝さんは知っていたから、普通のことなのかな?


「せや。魔石を使って、武具に属性耐性をつける鍛治技術のことは知っているよな?」

「知らない」

「……はぁ。さよか。ほんじゃ簡単に説明するけどな。本当なら王都の鍛治ギルドのクエストを受けてクリアしないと、作れない技術やから内緒な。例えば、この俺の普段使いの長剣だけど、実は炎属性を増やしているんや。これの攻撃は火属性なんやけど、その属性力に対して抵抗力を高めるために必要なのが、属性石ってことなんや」


 ほほう、そんなものがあるとは知りませんでしたよ。

 まあ、まだ始まって二ヶ月経ってないからなぁ。

 ヨル観でも、情報求むのレベルだからね。

 検証班の皆様、頑張って下さ〜い。


「その属性石って、何種類あるの?」 

「紅蓮石、氷華石、風凪ノ石、大地ノ石、光明石、常闇ノ石、と。全部で六種類や。ちょっと待っててな」


 そう話してから、大和伝さんが倉庫に入っていきます。

 ああっ、鍛冶場に私一人って、大丈夫なの? 

 

「おう、大和伝はいるか?」


 ほら、外のカウンターから声がしますよ。

 はいはい、私が代わりに対応しますよ。

 そそくさとカウンターに出てみると、まあ、なんてむくつけき大男でしょう。


「なんだ、大和伝は留守かよ」

「はい、今はいません(鍛冶場にはな〜)」

「チッ……おまえは鍛治師か?」

「いえ、半端な盗賊ですね。鍵は開けられないけど罠は外せます」

「ゴミかよ!!」


 ムッ。

 一言をゴミって言っていいのは、どこぞの天空の城の城主だけなんですよ?


「ゴミで笑うございましたね。それよりも大和伝さんに伝言があったら、伝えておきますよ」

「メイルシュトロームの短剣、それを早く作れっていえば分かる。じゃあな」


 そう言い捨てて、男は店を後にします。


「あれ? 誰か来てたんか?」


 そして入れ違いに、大和伝さんも戻ってきました。

 なんて偶然。

 良いタイミングです。


「はい、むくつけき大男が、メイルシュトロームの短剣を作れって」

「あ〜、神聖同盟の奴かぁ。あいつらな、レアメタル五種類のダマスカスナイフを作れって言ってきてな。素材もこっち持ちで、格安で引き受けさせようと必死なんや。そんな仕事、引き受けるはずがないわなぁ……と、これを見てかれるか?」


 ブツブツと文句をいいつつ、大和伝さんが箱を出してくれました。

 その中には、六種類の色とりどりの石が並べられています。


「手にとって確認しても?」

「市販品やから、お好きにどうぞ」

「では、失礼して」

 

 一つ一つを手に取ります。

 そして誰にでも読み取れる簡単な説明文を表示してみますと。


『紅蓮石……火の属性耐性をつけるための属性石。月夜に採掘される紅蓮石は希少で、純度が高い』

『氷華石……水の属性耐性をつけるための属性石。永久氷結洞の中で採掘されるものは、希少で、純度が高い』


 ん〜。

 ビンゴかな?

 残りの四つも確認しましたが、どうやら最初の詩篇に記された歌、それはこの属性石を指していたようで。

 なるほど、こんなに簡単な……って、必要なのは市販品ではなく、採掘しなくてはならない希少価値の高いものでしたか。

 これは、ハルナちゃんにも相談しなくてはなりませんね。

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