第9話・ヒントを探せ、謎が謎すぎて謎!
ヨルムンガンド観光協会。
日本初のフルダイブ式MMORPGの情報まとめサイトであり、アイテムなどの外部取引掲示板として数多くのユーザーが活用している。
このサイトの中で唯一、情報が錯綜しどれが正しいのかわからない項目がある。
【R・I・N・G】クエスト。
世界初の、クリア報酬が夢を叶えるものであるというこのクエストの情報は膨大であり、かつ、正しいものは存在しないと言われている。
それは何故か。
クリア報酬の例として公式が挙げたのが、【現金10億円までなら支払い可能】という部分があるから。
それ故に、【R・I・N・G】クエストを開始したユーザーは、ここで情報を得るために、そして他者のクエストを妨害するために、さまざまなエセ情報も掲載されている。
なお、ほんのごく僅かにだけ、正しい情報がアップされているのを、【R・I・N・G】クエストを開始できたユーザーは理解している。
それは、スタート時には必ずメッセージに表示されるパターンと、知らず知らずのうちにフラグが成立し、クエスト画面に浮かび上がっているパターンがあること。
そしてもう一つ。
クエスト内容は、二つの詩篇で構成されていること。
………
……
…
──ルーゼンベルグ領・領主の館
いきなり発生した大規模クエスト。
そして、私の元に届けられた【R・I・N・G】クエスト開始のメッセージ。
思わず近くにいたアスナも巻き込んでしまったけど、これはどうなんだろう?
巻き込んでしまってよかったのか、それとも二人、別々のクエストを狙った方が良いのか。
そもそも、【R・I・N・G】クエストは幾つ存在するのか、そこから調べないとならないと思って、私の屋敷の応接間でアスナと一緒に外部リンクを使ってインターネットで情報を探しているんだが。
「にゃぁぁぁ!! ガセネタの宝庫かぁ?」
「ヨル観(ヨルムンガンド観光協会)にも、ガセネタしかないと思う。それて、ハルナちゃんのクエスト内容って、どんな感じなの?」
「ちょいと待ってね……クエストオープン、パーティー内掲示の許可」
──ブゥン
クエスト画面やアイテム情報などの細かいデータは、フレンド、パーティなどにも公開できるように設定できる。
私は普段からアスナとペアでやっていて、たまにスーパーマックスとか、鍛冶屋の大和伝の採取依頼に付き合ったりしている程度なので、普段は開示していない。
「この二つの歌? これがクエスト?」
「ね、頭を抱えたくなるでしょう?」
【紅き月、白き化粧を纏いて大いなる風に抱かれる。母なる腕が目を覚まし、そして再び眠りにつくまで】
【あなたが手にするのは、一つ目の栄光。渦巻く刃、五つの魂が削る命、そこに真実はある。だが、それを手にするのはあなたではない】
「はぁ。H&Hの予言かよ……って思うでしょ?」
そうアスナに尋ねると。
彼女は腕を組み、すぐにアイテムストレージを開いて何かを探している。
「……ねぇ、ハルナちゃん。二つ目の渦巻く刃、それってこれのことかな?」
アスナが目の前に差し出したのは、一振りのナイフ。
手に取ってアイテムデータを確認してみると、『上質なナイフ+5。ダマスカス鋼を使用している』とだけ書いてある。
「これが?」
「抜いたら分かるよ」
「へぇ、では、ちょいと失礼して」
鞘からナイフを抜くと、その刀身を見て震えだす。
ダマスカス鋼って、幾つもの金属を練り込んで鍛錬されているらしく、表面に幾つもの波のようなら紋様が浮かび上がっている。
「……これだ!!」
「と、思うでしょ? でも違うよ。それは大和伝さんに作ってもらった、普通のダマスカスナイフだから。クエストに使うナイフなら、もっとすごいものだと思うんだよね」
「なるほど。確かに、クエストアイテムとなると、誰でも簡単に作れるものじゃないよなぁ。でも、大和伝って、良くこんなの作れるなぁ」
「初期アイテムで、【レア度A武具のレシピ】を引いたらしいよ。そのあと何度か挑戦して鍛治スキルも手に入れたから、鍛治師になったって話していたから」
へぇ、なかなかやりますなぁ。
信念、岩をも貫くって奴かぁ。
でもそうなると、どんな材料を使って、このダマスカスナイフを作るんだ?
「レア素材……でも、まだ未公開の素材もあるらしいからさ。それに、ここまでは私の推測だけだから、まだ別の解釈があるかも知れないよ」
「そうだよなぁ。まあ、街でもぶらついて、情報を探すとしますか」
「それにさ、今は大規模クエストの最中だから。ひょっとしたら、このクエストも【R・I・N・G】に関係しているかもしれないよ?」
「……十分にありえるなぁ。でも、あたしゃ戦闘スキル皆無の領主だからなぁ。荒事だと困るんだけど」
改めて自分のステータスを確認する。
そこから【属性魔術・光7】の欄から
うん、明るいよなぁ。
あと光魔法って回復魔法も兼ねていて、ヒール系は全て光魔法に集約されているらしくてね。
それも、簡単な回復魔法ならレベル1から使えるけど、スキルレベルが高いと効果が全く違ってくる。
この辺りは、ヨルムンガンド観光協会にステータスとスキルレベルの簡易計算表があってね、それを参考に私が回復魔法を使った場合……。
単純計算で、レベル1魔法のヒールでも59.5ダメージを回復できる。
まあ、初期キャラクターなら瀕死でも一発回復なんだけど、スキル全てに隠しステータスボーナスみたいなのがあるらしくてね、初期で割り振った数値とゲーム開始時の数値が違うんだよ。
この法則性はいまだに謎で、さらにランダム要素もあるそうで。
同じキャラクターデータでも、開始すると全く違うステータスになるっていうのは検証されていた。
「うーん。でもさ、光魔法って攻撃呪文もあるよね?」
「一応ね。あるにはあるけど、使ったことなかったからなぁ。普段はこれを振り回していたから」
腰のブレードウイップを軽く叩く。
普段はショートソード、コマンドワードで分離して金属の刃を持つ鞭のようになる。
まあ、一昔前にアニメで流行った『罪人の剣』って奴らしくて、マニアには高く売れたよ。
他にもテンガロンハットも売り飛ばしたし、粗雑な支給装備は消耗品として残っているかな?
アスナには一式全て、一つずつ渡してあるけどね。
ちなみにあのテンガロンハット、実はセット装備らしくてさ。
なんだかのパンツという防具とテンガロンハットだけを装備すると、隠し必殺技が出るって噂なんだよね。
「このブレードウイップって、すごく便利だよね。同じものを作りたいから売ってくれって、大和伝さんに懇願されたよ。売らなかったけど」
「売って、もっといい素材で作って貰えばよかったのに。ちなみに私の持っている、使えそうなスキルや所持品は、こんな感じかなぁ。アスナは?」
「私はダマスカスナイフと、鉱石採取セット、鉱石型録、ハイエルフの証だけ」
「え? 四つ? ボーナスアイテムは?」
「ハイエルフのドレス、エルフのマントもあった。ボーナスアイテムって?」
年齢などを全て入力して、完成データまで仕上げてコンプリートボタンを押したら、それに応じてスキルやアイテム数が追加される。
ちなみに私の場合、領主なのでさらに追加アイテムが三つ、スキルが二つ追加される……筈だったらしい。
「……という感じで、コンプリートするとステータスや職業、称号に応じた追加ボーナスがあるんだよ?」
「あ、このステータスの『保留スキル』『保留アイテム』って、そういうことなのか」
「……なにそれ?」
思わず突っ込んで聞いてみると、どうやらスキルやアイテムを決定しないでコンプリートするユーザーもいたらしく、後から救済措置として、習得していないスキルやアイテムは『変更不可』という条件でゲーム開始後にも習得できるようになったらしい。
このボーナススキルなども当初はあまりわからない人が多く、そのままゲームを開始してしまう人が続出したらしく。
まあ、最初に決めた分でも十分に遊べるそうで、後から取れるようになったのは救済パッチがあたったからだってさ。
「本当だ。スキル枠二つ、アイテム枠三つが増えていて……なに貴族のドレス? これ、自費で買ったわ!! くぁぁぁぁぁ、ドレス装備でしか受けられない貴族クエストがあったんだよ、そのためにちまちまとホーンラビットを狩り続けてたのにぃぃぃぃぃ」
とんでもない現実に、私は頭を抱えて転がりなたくなってきた。
まあ、オフィシャルも随時、アップデートしているようだから良しというところか。
「まあまぁ、ハルナちゃんも追加スキルとか手に入るんだから、それで良いじゃない」
「それが【R・I・N・G】クエストに役立ってくれたらね。はぁ、修得は明日にしよう、今日はそろそろ、空腹を満たしたいわ」
「それじゃあ、サイバリアンでお昼を食べながら情報収集しましょうか」
「そうだね。じゃあ1時間後に、いつものところで」
「あいあいさ!!」
あとはこのままログアウト。
シャワーを浴びて出かける準備をしてから、少しだけ情報収集を……って、メッセージ?
「ん? ヨルムンガンド・オンライン公式からメッセージ?」
うん、簡単なアンケートだったわ。
答えたら登録ユーザー全員に『福引券』っていうのが配布されるし、抽選で20名には【外部リンクシステム】っていうのがもらえるらしい。
これって、スマホと連動させて、現実世界でも立体画像を作り出す奴らしくてね。ほら、よくあるSFアニメとかで、目の前にモニターのようなものが浮かび上がる奴、あれができるようになるんだよ。
「へぇ、これって開発が終わって、ようやく販売されるって噂だったのに、先行で配布されるのか……まあ、チャンスは掴むもの、早速アンケートと」
これがまた、ハマるタイプのアンケートでね。
全て終わった時には、遅刻確定間違いなしの時間だったよ。
慌ててバイクの鍵を手に、駐車場に向かったのはいうまでもないよね。
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