第55話 組み合わせ

「詳しい仕組みはよくわからんが…ゾルはガラになる時に、動物の魂を巻き込むことができるらしい。魔力がある程度あれば、巻き込まれた動物の姿になることができるそうだ。ただ、そちらに魔力を割いてしまうから、特別な魔法は使えない。逆に人の姿のまま魔力を上げているガラは、何らかの特別な魔法が使える。バートでシュートを操った環やオーリッツの北の洋館にいた団蔵がいい例だ。」


魂を巻き込む…?何だかよくわからない。それに、ラズの変化対象はドラゴンだ。動物ではない。


「ドラゴンは実在していて…少なくとも実在していた。で、その魂がラズの中に眠っているということなのかしら?」


ベルは首を傾げた。


「いや、コウモリとトカゲの魂を融合したらしい。」


それはまた、恐ろしい響きだ。二つの生物の魂を合わせてしまうとは。以前シュートが、マルビナの図書館にある文献に、伝説上の生き物の姿をしたガラがいるという話があったと言っていた。その時話したそういった生き物は全てガラだという説は、正しいのかもしれない。


「かなり珍しい例で、強力な力のようだ。俺は半分ガラの上に実在しないとされている生き物に变化する自分が、気味が悪くて仕方なかった。」


ラズはエンの民として生きたいと願っている。他の者とあまりにも違う姿になってしまうというのは、嫌なことなのだろう。だから、ラズは話したくなさそうだったのかもしれない。


「いやぁ、でもコオロギと白鳥とかじゃなくてよかったな!」

「コ…は?」


ラズが何を言っているんだこいつは、と未知の生物を見るかのような目でシュートを見た。


「確かに、虫に白鳥の羽は似合わなさそうだし…コオロギじゃ踏まれちゃうもんね。あ、でも、あの蛇のガラみたいに巨大化するのかな?」


巨大ならそれはそれで強そうだが、だいぶ気持ち悪い…虫がそこまで得意ではないミックは一瞬想像しただけで鳥肌が立った。


「ぷっ…あんたたち…コオロギってチョイス…はははっ!」

「ラズがコオロギって…しかも羽は白鳥なの?あはははっ!ダメだ、想像すると…はははっ!」


シュートの絶妙に気持ち悪い組み合わせの思いつきとそれを大真面目に検討するするミックの滑稽さに、ベルとディルはたまらず吹き出した。ミックは突っ込まれて自分の発言のアホさ加減に気付いた。そして、ラズが白鳥の羽を持ったコオロギの姿になったのを想像するとおかしくてしかたない。ミックはベル達と一緒になって笑った。シュートも笑いだした。


「お前達、俺がどれだけ悩み苦しんだと思っているんだ。それをコオロ…ギ…ぷはっ!ははは!」


初めは呆れて怒っていたラズもあまりにばかばかしかったのか笑いだした。ラズがこんなに笑うのを見たのは初めてかもしれない、とミックは何だか嬉しくなった。


 

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