第23話 離脱

 シュートの視線はラズに固定されたままで、ミックたちの方は見てくれない。


「戦闘はからきしでガラは怖いし、魔法使えるっつったってまだまだで、ラズに大怪我させちまうし……。俺はみんなの役に立てない。この街だったら、俺より優秀な医者はきっといる。魔法も使えるかもしれねぇ。俺より適任なやつが見つかれば、王様だってメンバーの交代を認めざるを得ないはずだ」

「そんなことないよ。シュートにはすごく助けられてるよ!」


シュートは首を振り、やんわりと肩に置かれたミックの手をどかした。ミックの手は所在なさげに宙に置かれた。


「俺は……自分が占いで選ばれたとは思ってねぇんだ。だから、最初から誰か別の医療知識があるやつでも良いって思ってた。俺じゃなきゃいけない理由はきっとない」


そんなことを思っていたのか……占いでの選出という話を全く疑っていなかったミックは、その告白に衝撃を受けた。


喉から絞り出すようにシュートは言葉を続けた。


「ラズが回復するまでは、責任持って一緒にいようと思う。でも、その後は他の誰かに……」


シュートはずっと辛かったんだ。ガラの恐怖に怯え、自分の無能感に苛まれ……責任感があって、優しいシュートだからこそ、辿り着いた結論なのだろうとミックは心が痛んだ。


それでも、ミックはシュートと旅を続けたかった。シュートの医療知識や技能、氷の魔法には助けられてきた。旅のメンバーをサポートする大きな役目を担っているとミックは感じていた。


そしてなにより、旅の目的を考えると不謹慎かもしれないが、シュートと一緒にいるのは楽しかった。いつも仲間の間の雰囲気を明るくしてくれるのはシュートだった。


「占いで選ばれてないっていうのは……俺も思ってたよ」


ディルが丁寧に言葉を差し出すように、ゆっくりと言った。


「占いで選んでないんだとしたら、そんな大事な旅に適当なメンバーを選ぶと思う?シュートは適任だと思われたんだ」


シュートは重たそうに顔を上げた。ディルの顔は真剣そのものだ。ディルの隣のベルも、シュートに頷いて見せる。


「それでも……俺は……」


シュートが言葉を切り俯く。握りしめた手は震えていた。


病室の窓の向こうの空は、憂いを含んだように暗い灰色の雲に覆われていた。


はっとしたようにシュートはベッドに視線を戻す。ラズがもぞもぞと動いたかと思うと、跳ねるように起き上がった。


「ここは……っつ!」


右腕に体重がかかったからか痛んだようで、またすぐにベッドに倒れ込んでしまった。


「ラズ!」


シュートがラズの顔を覗き込む。


「ここは病院だ。もう、危険はない。視界はどうだ?気持ち悪くないか?体に異変は?」


ラズは眩しそうに目を細めている。眉間にしわを寄せ少し唸る。


「貴様のその大きな声で頭が痛い。あとは何ともない」


ラズが今度はゆっくりと右手をかばいながら上体を起こした。


受け答えははっきりしている。しかし当然ながら、状況がわからないようだ。考え込むような顔をしている。ラズは左手を顎に当て、シュートを無言で見つめる。


「そうか、よかった。……じゃあ、俺のやることはもうないな」


シュートは病室のドアへと向かっていく。思わずミックは腕を掴んだ。シュートは止まったが振り向かない。


なんと言えばいい?どうすれば心に届く?ミックには咄嗟に言葉が見つからなかった。


切羽詰まったようなミックの表情やディル達の様子を見てラズが言った。


「貴様……もしや旅を辞めるつもりか?」


シュートがばっと、振り返った。ミックもラズを見た。三日も寝ていて起きて数秒でこの状況を把握とは…どんな脳をしているのだろう。そして、ラズはシュートが辞めることについてどう思うだろうか。


「……そうだよ。お前は賛成だろ?」


シュートは唇の端を吊り上げ、自嘲気味に笑った。


「貴様のことだ。自分が無力でこの旅に同行するには相応しくないとでも思っているんだろう」


シュートの顔からは笑みが消えた。ラズを見つめ続ける。


ラズは軽くため息を吐いた。


「まず一つ。貴様が気付いたかは知らないが、あの蛇と戦っていたとき、既に俺の右足は完治していた。右腕の怪我の回復速度を見ているだろう?だから、蛇との戦いの怪我に貴様の責任は皆無だ」


シュートは黙っている。ラズは続けた。


「二つ。貴様が思っているほど、氷の魔法を使える者はいない。五十粋という魔力量はかなり多い方だ。間違いなく今後使える力だ」


ラズはシュートの目を真っ直ぐに見ている。しかし、シュートはくるりと背を向けてしまった。


「もういいんだ!俺は自分に幻滅した。これ以上役に立てそうもないんだ」


シュートはミックの手を振りほどき、病室から出ていってしまった。シュートの足音が遠ざかる。静まり返った病室の空気は重く、ミックたちの上にのしかかった。


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