第10話 優しい?
「え、遅いからって人に物投げんのか?」
シュートがキッと前方を睨みつけた。
「これ、杖にしろってことじゃない?足にかかる体重が分散されるから、だいぶ楽になるよ」
木の棒は手に持ってつくには程よい長さで、端っこが持ちやすいようにささくれなどが削ってあった。少し前からラズがやたら先に進むと思っていたが、木の枝を探して杖を作っていたのか、とミックは合点がいった。
「なんだ、あいつ良いやつじゃねぇか!ラズ、ありがとな!」
明るいシュートの声に、ラズは反応を示さなかった。
日が落ちる前に程よく開けた場所を見つけ、ミック達は薪を集めた。火を起こし、夕飯の準備をした。今回の担当はラズとミックだ。
「包丁は……扱えるのか」
ジャガイモをスープ用にカットしているミックを見て、ラズが言った。
「そうなんだよ。刃物全般がダメってわけじゃなくて、『これは武器だ』って思うと使えないみたい」
カットしたジャガイモを、ミックはぼとぼとと火にかけている鍋に入れた。
自分の戦力をきちんと把握してもらった方がいいと思い、道中仲間には剣を扱えないことを伝えていた。その際に
「ああ、だからあの時、その装備している短刀を使わないで、小手でガードしようとしてたんだね」
と、ガラに背後を取られた時のことをディルに指摘された。その通りだった。仲間達に剣を扱えなくなった理由までは話していない。しかし、ミック自身はきっかけとなった出来事をわかっている。
すっぽりと記憶が抜け落ちている父が亡くなった事件だ。父親に庇われ無事だったミックは、その時剣を握っていたそうだ。目の前の父親の死のショックももちろんだが、剣を持っていたのに助けられなかったという自責の念や無力感も使えなくなった原因なのでは、と医者には言われた。
それならば、尚更人を守れるように剣を使えるようになりたかった。ミックは無理やり使っていればその内克服できるのではないかと、時折剣を握ってみていた。未だに恐怖心でいっぱいになり手が震えるが、諦めず今後も試し続けるつもりだ。
夕飯を終え、火を囲みながら、現在の位置と明日の予定、今晩の見張りの順番を確認した。順番はディル、ベル、ラズ、シュート、ミックだった。今晩はディルとベルには二回見張りが回ってくる。火を消してディル以外が毛布に包まった。ディルは少し高台になっている場所まで行き、そこに砂時計を置いて見張りを始めた。あそこで見張りかぁと確認したミックは、目を閉じ風の音や虫の声を聞きながら眠りに落ちた。
「おい、起きろ。交代だ」
軽く肩を叩かれて、ミックは目を覚ました。ラズだ。もう見張りの時間かと思ったが、なんだか違和感がある。そうだ、順番がおかしい。
「あれ……わたしの前シュートじゃなかった?」
「俺の見張りが始まる時間に、奴が目が冴えたとか言って起きたから交代してやったんだ」
草が生えているとはいえ地面が固くて眠れなかったのかな、とミックは仰向けになって鼻提灯を作っているシュートを見やった。
その時、ちょうど雲から月が顔を出し、ミック達が寝ている開けた場所を照らした。月明かりの中で、背の低い草が風に揺れる。そこで、気が付いた。
「ラズ、もしかして、シュートの分も見張りやってくれた?」
「なぜ、そうなる?」
ラズの顔はいつも以上に不機嫌そうだ。
「だって、シュートが寝てるところから見張りの高台までの草、全然踏まれてないから」
ラズはそちらに目をやり、ちっと小さく舌打ちをした。
「貴様は妙なところで鋭いな。仕方ない……俺と口裏を合わせろ」
「どういうこと?」
「奴は自分がこの旅で荷物になることを気にしている。見張りをしなかったとなれば、更に気に病む。だから、もし奴が見張りをやり忘れただの何だの言い出したら、貴様は『シュートに起こされた』と言え」
「なるほど!思いやりだね。ラズは優しいなぁ」
にこにこと笑うミックを、ラズは困惑した表情で見つめた。
「優しい?……違う!俺はただ効率よく旅を進めたいだけだ」
ラズは自分の寝床へ行き、毛布にくるまってしまった。
言葉は厳しいが、なんやかんやでシュートのことを気遣っているラズは、優しい人で間違っていないのではないかと思いながら、ミックは高台へと行き見張りをした。
夜の風は冷たい。昼間はあんなにサワサワと気持ちよく風に吹かれていた可愛らしい緑の葉っぱたちは、黒い大きな怪物の手のようだ。いつもだったら、今頃の時間は、宿舎でベッドで眠っているかロッテと他愛もない話をしている。
はっとして背後の木の枝を見たが、ふくろうがとまっているだけだった。しばらく見つめていたが、特におかしいところはない。ミックは詰めていた息を吐き前に向き直った。
野外での訓練や任務は初めてではないのに、なんだかとても遠いところに来てしまったようで孤独感が募った。心細くなって、ロッテからもらった髪飾りに触れた。少し温かな気持ちになれた。ミックは大好きな物語や歌のことを考えながら、見張りを続けた。
朝、ソーセージの焼ける匂いで、ミックは目を覚ました。
「おはよ。ベル、朝ごはんの準備ありがとう。私もやるよ」
あくび混じりで挨拶をし、思い切り伸びをした。ミックの声でシュートも目を覚ました。
「おはよう……あれ、朝?」
シュートは頭を抱え、何かを思い出そうとしている。しばらくして、シュートはばっと頭を上げて叫んだ。
「みんな、悪い!俺、見張りしてねぇ!ただでさえ足引っ張ってんのに、そんなことさえできてねぇなんて……」
慌てるシュートに、ミックは顔の前でぶんぶん手を振り彼の言葉を否定した。
「やってたやってた!見張りやってたよ!わたしはシュートに『交代だ』って起こされたから大丈夫!ハハハ……」
シュートは混乱しているようだった。ミックの言葉を百パーセントは信じていなさそうだった。
「俺は貴様を起こしたし、その後貴様はそこの高台で見張りをしていた」
薪を持ってディルと一緒にラズが現れた。助かったー!とミックは内心ほっとした。これ以上何といえば信じさせることができるのか、皆目検討がつかなかったのだ。
「お前が言うならそうか……。でも覚えてないってことは俺見張りながら寝てたのかもな」
とりあえず信じてもらえて安心した。嘘はやっぱり向いてない、とミックはため息を吐いた。
杖のおかげか、昨晩ぐっすり眠ったからか、昨日程は遅れずシュートは歩いていた。シュートは徐々に歩くのにも野宿にも慣れていった。ミックとラズは、カーディアを出て五日目の夜にもこっそりとシュートの見張りをとばした。
カーディアを出て一週間経った日、一行はお昼過ぎに宿場町のバートに着くことができた。しかし、日中は開いているはずの町の門は固く閉ざされていた。訪れる者を拒絶するかのように鎮座し、暗い影を落としていた。
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