第5話 ――出会い

 次の日



「マジでヤバいって……石井先生、めっちゃSじゃん。あんな可愛い顔して!?」


「陸上の先生なんて、そんなもんじゃないか?」

「君たち大変だね~~。」




 俺と晴矢。そして、たまたま近くで1人飯をしていた藻野もや 紫雲しぐもを誘い、一緒に昼飯を食っていた。



「なぁぁーー紫雲、お前も陸上部に入ろうぜ?」

「晴矢くん、それは無理だね。僕は忙しいんだから。」

 紫雲は、眼鏡をキリッと光らせてドヤる。



 こんなに賑やかで、皆で楽しくご飯が食べられるなんて幸せだな。


 2人が言い合いをしているのにも関わらず、俺はご飯を噛みしめていた。


「それにしても……雨季の前の席。ずっと空いてるよな。」

「ずっと。って程じゃないけどな。」


 俺の前の席は、ずっと欠席状態だった。おかげで眠れなかったり不便しかない。



「なんでだろうね。先生も言わないし……」

 紫雲も不思議そうな顔で見つめていた。まぁ、今は真面目に頑張るしかない。



「なぁ、雨季。今日の部活は何すると思う?」

「……え、今日休み。って言ってなかったか? 新入生は集合無しとか。」

 今考えてみれば昨日の練習は休み前だからキツかったんだな。と納得する。



「えっだったらさ、皆で遊ばね?」

「ごめん。今日は研究部があるからね。次……日曜日とかかな?」



「雨季は?」

 今日は、


「悪い。俺もやることがあるんだ。ちなみに日曜日はいける。」

 俺がそう言うと、晴矢はボッーと目の光を失ったように見つめてきた。



「お前……! まさか!」

 まさか晴矢も、人影を見たのか?俺は前に乗り出して目を見開いた。



「か……かっ…」

 ゴクッ



「彼女かあああ!!!??? お前だけはちがっ」

「違う。」

 暫く静かな空気が流れていった。俺と紫雲は呆れた顔をしながら時間だけが過ぎていく。



「全く、なんでそっちにいくかなぁ?」

「だってさぁ……雨季って彼女いそうじゃん。」


「初めて言わたんだが?」

 俺の顔は彼女がいそうだという話題は、何故か放課後まで続いていた。


 晴矢は彼女の事で頭がいっぱいそうだが、あの人影の事しか考えてなかった。



「じゃあな!」

「僕は、部活だから~~」


「あぁ身体を休めろよー。頑張ってくれー。」

 皆と別れた後、すぐに周りの探索を初めていた。



(ここまでか……)

 階段を登って、登っても、3階までしか階段は無かった。



 他の場所をみても、何処にも屋上に向かう階段がない。

 なら、あの人影は? 女の人の声は?



 全てが幻想なのだったのだろうか。人影を見たと錯覚すれば、風の音でも声だと認識してしまうのかもしれない。



 あの人影を見た時、何故か心がざわついていた。俺は不思議なものに惹かれているのかもしれない。


 ただの幻想なのに。




 とりあえず、最後の希望で3階のベランダに踏み出した。先輩達は帰って、人が1人もいないのを確認し、そっと中に踏み出す。



 見た通り誰もいない。先輩の言った通り、トラックからは見えるはずが無い場所だった。



「帰るか。」

 でも、これで諦めがついた。ただの幻想だと。あの人影は気のせいだと。



 俺は、ドアに向かって歩き出した。

「ねぇ君。見えるの?」

「―っ!」


 この透き通る声。間違いなく昨日の声だ。

「……見えた。」


 僕は、小さくそう呟いた。周りを見渡しても誰もいない…はず

「やっと!! やっと見つけた!!!」

「――っ!!!」


 いつの間にか、足に力が入らず尻をついていた。目の前には……髪の毛が長い女の人がニコッと笑っている。



「やっと! やった……」

 彼女は、涙を浮かべながら俺の手を握っていた。瞳がキラキラと煌めいている。


 透明感のある髪に、白い服……まるで幽霊みたいだ。

 少し不気味だが、それでも引き込まれてしまう。



「えっ…えっと。」

「ねぇ、私をここから出して!」

 彼女は俺に頼みこむが、今の状況に頭が追いつかない。



「……?…っ。」

 小さく声を唸りあげても、彼女は俺に頼み込むのをやめる様子がない。



「わっ……わかった! 分かったから…離れてくれ。」

「本当!?」

 分かってない。顔が近いっ




「で、俺は何すれば…?」

 彼女を無理やり落ち着かせたが、俺は壁に張り付いていた。



「あのドアを開けてくれない?」

「ん?あぁ……分かった。」


 俺は、ドアをスっと開けると彼女は嬉しそうに走っていった。

ただ開けて欲しかっただけか?



 …………流石に、ここで封印されてた。とかないよな?



「あっまたここに来て!! じゃあね!」

「……えっ…あ、あぁ分かった。」


 まるで、風のように消えていった。また。か。



 いつの間にか、平凡な毎日にたった1つの非日常が紛れ込んでいた。


 全ては……彼女によって。

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