第208話 豹変するアドルフ様

「う……あ、痛たたたた……」


 アドルフ様が突然ベッドから身体を起こした。そこへ1番近くに居たおじさまが真っ先に声を掛けた。


「アドルフッ!目が覚めたのか!!」


 するとアドルフ様はじっと私達を見つめている。


「大丈夫か?アドルフッ!!」

「アドルフ……良かったわ、目が覚めて」

「お前、2時間近く意識が戻らなかったんだぞ?」


 おじさま、おばさまに続いてアドルフ様のお兄様も声を掛ける。


 それでもアドルフ様は何故か口を閉ざして私達を見つめるばかりだった。もしかして、まだ目が覚めたばかりで状況が把握できていないのかもしれない。


 だけど……目を開けてくれた……。


「アドルフ様……ご無事で良かったです……」


 ボロボロ泣きながら私はアドルフ様に声を掛けた。すると、次の瞬間驚くべき言葉がアドルフ様の口から飛び出した。


「何だよ、揃いも揃ってうるさい奴等だな……。俺は頭が痛いんだよ!さっさと出てけ!1人にさせろよっ!」


 それは今迄に一度も聞いたことのない、乱暴な口調だった。そして何故か敵意を込めた目で睨みつけるアドルフ様。

 

 そ、そんな……何故……?あまりにも突然のアドルフ様の豹変ぶりに私は言葉を失ってしまった。


「ア、アドルフ……お前、一体どうしたんだ?まるで別人のようじゃないか?」


 おじさまが狼狽えながらアドルフ様に声を掛ける。


「別人?誰がだよ?俺はアドルフ・ヴァレンシュタインだ。何か文句あるかよ?」


 思わず、耳を塞ぎたくなるような乱暴な口調に身体が震えてしまう。


「そ、そうだ。アドルフ。ブラッドリーが階段下で倒れているお前を発見して私達を呼びに来たんだよ」


「へ〜。ブラッドリー、お前が俺を助けてくれたのか?ありがとうよ」


 その時、何故かアドルフ様はブラッドリー様にだけ笑顔を見せた。


 アドルフ様……!

 私達のことは睨みつけ、ブラッドリー様にだけ笑顔をむけるアドルフ様。そのことが私にはとてもショックだった。


「あ、い、いや。そんなの当然だろう?お前は俺の親友なんだからな」


 ためらいがちに返事をし、何故かアドルフ様から視線をそらせるブラッドリー様。

 私はアドルフ様の変貌ぶりにショックを受けつつも、ブラッドリー様の態度に違和感を感じていた。


 何故だろう?ブラッドリー様の言葉には少しもアドルフ様を心配する気配が感じられないのは。

 そしてブラッドリー様にだけ笑顔を見せるアドルフ様。私はおもいきってアドルフ様に声を掛けてみた。


「あ、あの……アドルフ様……」


 するとアドルフ様は私の方を振り向き、一瞬だけ悲しげな表情を浮かべた。


 え……?


 けれど次の瞬間、態度が豹変する。


「鬱陶しいい奴らだなぁ!いい加減、お前ら出ていけよ!1人にさせろって言ってるだろう!」


 再びアドルフ様が怒鳴りつけてきた。


「わ、分かった。すぐに出ていくよ」

 

 おじさまは慌てたように返事をすると、私達に声を掛けてきた。


「皆、行こう。少しの間アドルフを1人にしておいてあげよう」


 そして私達は全員アドルフ様の部屋を後にした――。

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