第200話 疑う気持ち
いつまでもアドルフ様の側でグズグズ泣く私に、大人の人達は困ってしまったのだろう。
何故かアドルフ様が怪我をしたことを知らせに行ったのは私ということになってしまった。
私はそれは違うと言おうと思ったのに、おばさまが素早く目配せをしたからだ。
ひょっとすると、私が自分を責めていると思ったから気を使ってくれたのかもしれない。
そして、結局誰が石を投げたのかは判明せず……この日、ブラッドリー様が姿を表すことは無かった。
私はブラッドリー様を疑った。けれどもあの方はアドルフ様の大切な親友で、本当に犯人かどうかも分からない。
だから、私はこのことを黙っていることにした。ブラッドリー様を犯人扱いして、仮に違った場合アドルフ様を傷つけたくは無かったから……。
そして、翌日登校した私に予想外な出来事が待ち受けていた――。
****
翌日――。
私は重苦しい気持ちで登校してきた。その理由はアドルフ様がいないから。いつも隣の席で一緒に勉強をしていたアドルフ様がいないだけで、こんなに憂鬱な気持ちになるなんて……。
ため息をついて席に着席すると、背後から声を掛けられた。
「おはよう、エディット。昨日は遊びに行けなくてごめん」
ブラッドリー様!
昨日の出来事が頭をよぎり、緊張しながら私は振り向いて挨拶をした。
「おはようございま……え?ど、どうしたのですか?その腕……」
驚いたことに、ブラッドリー様の左腕はグルグルと包帯が巻かれていた。
「うん、実はさは。昨日アドルフの家に行く前に探し物があったから、棚の中を探していたんだ。そうしたら上に鋏が乗っていたのかな?突然落っこちてきて腕に刺さったんだよ。いや〜痛かったなぁ。血が沢山出てさ。親も驚いて駆けつけてきたんだよ」
ブラッドリー様は笑って私に説明する。
「それは大変でしたね……。怪我の具合は少しは良くなったのですか?」
「もちろんさ。まだ痛むけど平気だよ。心配してくれてるのか?エディット」
「はい、勿論です」
「そっか〜。ありがとな、エディット」
「いえ……」
私の言葉に随分ブラッドリー様は喜んでいるようにも見える。けれど、私はますますブラッドリー様に対する疑念が広がっていた。そんな自分を最低だと思ってしまう。
だって、口では心配している素振りを見せながら……アドルフ様を怪我させたのはブラッドリー様なのではないかと疑っているのだから。
こんな私の心の内をアドルフ様に知られたら……嫌われてしまうかもしれない。
思わずギュッと制服のスカートを握りしめていると、ブラッドリー様が声を掛けてきた。
「なぁ、エディット。今日はアドルフ、どうしたんだ?」
「え?あの……背中を怪我してお休みになりました」
「ええ?そうなのか?一体何でだ?」
ブラッドリー様は驚いているけれども、その態度すら怪しく思えてしまう。
「はい、実はサンルームに突然石が投げ込まれ……私に降り注いできたガラス窓の破片をアドルフ様が庇ってくれたのです。それで代わりに怪我をしてしまいました」
「へ〜それは災難だったな。でも、大丈夫なんだよな?そんなにひどい怪我じゃなかったんだろう?」
その言い方がどうしても私は嫌だった。
「大丈夫だったなら、本日登校できていますから……」
「あ……そ、そうか。そうだよな」
右手で頭を掻いているブラッドリー様がどうしてもわざとらしく思えてしまう。今は……これ以上お話したくなかった。
それなのに、まだブラッドリー様は話しかけてくる。
「エディット、今日はアドルフもいないことだし、放課後は2人で遊ばないか?!美味しい外国のクッキーが家にあるんだよ。甘い物好きだろう?」
アドルフ様が怪我をして辛い思いをしているのに、ブラッドリー様の家に遊びに行くなんて……。
「いいえ、折角のお誘いですが……放課後はアドルフ様のお見舞いに行きます」
「そうか?なら俺も行く!2人で放課後一緒に行こうぜ!」
え……?そんな……。だけど……。
「はい、分かりました。では一緒に行きましょう」
ブラッドリー様はアドルフ様の大切な親友なのだと思えば……私には断ることは出来なかった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます