第201話 駄目な私
結局、この日の放課後……私はブラッドリー様と一緒にアドルフ様のお見舞いに行くことになってしまった。
ブラッドリー様は何度も自分と一緒の馬車に乗ろうと誘ってきた。けれども私は、
アドルフ様を傷つけたかもしれないブラッドリー様とは同じ馬車に乗りたくなかった。
そこで私は互いの帰る方向が正反対なのでそれぞれの馬車で行きましょうと頑なに拒み、渋々ブラッドリー様は納得してくれた。
****
「まぁ、エディットにブラッドリーじゃない。まさかお見舞いに来てくれたの?」
エントランスまで出迎えてくれたおばさまが笑顔で私たちを迎え入れてくれた。
「はい、アドルフ様が心配だったので……あの、お加減はいかがでしょうか?」
「ええ。多分大丈夫だと思うけど……ブラッドリー。その腕の包帯、どうしたの?」
「実は昨日探し物をしていたら鋏が棚の上から落ちてきて腕に刺さったんです。もう腕から沢山血が出て大変でした」
「まぁ……それは大変だったわね。大丈夫?」
「う~ん……あまり大丈夫じゃないです。今も腕がズキズキ痛んで」
ブラッドリー様が痛そうに眉をしかめているけれども、私は黙っていた。今日1日様子を見ていた限り、それほど痛そうには見えなかった。何しろブラッドリー様は馬術の授業にも出ていたくらいだったし。
怪我の具合なら……多分アドルフ様の方が酷かったはず……。
「あら、どうかしたの?エディット」
おばさまが声を掛けて来た。
「い、いえ。何でもありません」
「エディットは俺のことを心配してくれているんですよ。な?」
笑いながら話しかけて来るブラッドリー様。まさか違いますとも言えず、私は頷いた。
「はい、アドルフ様のこともブラッドリー様のことも心配です」
「あら、本当にエディットは優しくていい子ね。今アドルフはベッドにいるわ。顔を見せてあげて」
「はい、おばさま」
「はい」
そして、私達はおば様に連れられてアドルフ様のお部屋へ向かった――。
**
アドルフ様は私がブラッドリー様と一緒にお見舞いに来たことが驚いたのか、目を丸くしながらも笑顔で迎え入れてくれた。
そして、早速ブラッドリー様の包帯に気付いたアドルフ様は心配そうな表情を浮かべながら話を聞いている。
やっぱりアドルフ様はブラッドリー様のことを何一つ疑っていない。私は疑問しか感じていないのに。
だったら尚のこと、ブラッドリー様に対する不信感を捨てなければ。
だって、アドルフ様に嫌われたくないから。ブラッドリー様はアドルフ様にとって大切な親友。
だったら、私もブラッドリー様を受け入れなければ。
「あはははは……そうなんだね」
「ああ、全くおかしくて笑っちゃうだろ?」
ふと気付けば、アドルフ様とブラッドリー様が楽し気に会話をしている。
その時――。
「う、いたたた‥‥…」
アドルフ様が顔をしかめた。
「どうしたのですか?!」
立ち上がると、私はアドルフ様に駆け寄った。
「う、うん……わ、笑った拍子に……背中の傷が……」
顔をしかめるアドルフ様。
「え?ちょっと見せて見ろよ」
ブラッドリー様に言われてアドルフ様が背中を見せると、着ていたパジャマに少しだけ血が滲んでいる。
「ち、血が……!」
思わず悲鳴じみた声が出てしまった。
「だ、誰か呼んでくる!」
青ざめたブラッドリー様が部屋を飛び出し、私は震えながらアドルフ様に声を掛けた。
「アドルフ様、ほ……包帯の替えはありますか?」
「う、うん。あのテーブルの上に……」
アドルフ様の視線を追うと、テーブルの上に救急箱が乗っている。慌てて取りに行くと、早速蓋を開けた。
「アドルフ様……い、今包帯を変えるので上を脱いで頂けますか?」
「うん……」
アドルフ様は痛みを堪えながらパジャマのボタンを外している間に、私は包帯をとりだした。
「!」
アドルフ様の包帯には赤い染みが広がっている。きっと、笑った拍子に傷が広がってしまったのかもしれない。
「ほ、包帯を変えますね……?」
「うん。ありがとう」
けれど、結局上手に包帯を巻けなかった私は泣きながらアドルフ様に謝ることになってしまった。
そして私は思った。怪我の治療が出来るようにこれから練習を重ねようと。
アドルフ様の役に立てるように――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます