第198話 アドルフ様の怪我
週末――
今日も私は父にお願いしてヴァレンシュタイン家へと来ていた。
いつものようにサンルームに向かうと、入り口で声を掛けた。
「アドルフ様、いらっしゃいますか?」
「うん!ここにいるよ!」
奥の方で声が聞こえたので、私は早速部屋に置かれた観葉植物を通り抜けながら急ぎ足でアドルフ様の元へ向かった。
アドルフ様はサンルームの窓際に置かれたテーブルに向かって、私に手を振っている。
「こんにちは、アドルフ様。お父様にお願いして遊びに連れてきてもらいました。私もここで一緒に本を読んでもいいですか?」
「うん、勿論いいよ。それじゃ一緒にここで本を読もうか?」
「はい」
早速私はアドルフ様の向かい側に座ると、持参してきた本を読み始めた。
カチコチカチコチ……
規則的に時を刻む時計の音、時折紙をめくる音が聞こえてくる。会話が無くても、アドルフ様の近くにいられるだけで私は幸せだった。
あまりにも幸せすぎて、暫くの間……私はブラッドリー様の存在を忘れていた。
10頁ほど本を読んだところで、ふとブラッドリー様のことを思い出した。
「そう言えば、ブラッドリー様はどうしたのですか?」
するとアドルフ様は顔を上げて首を傾げた。
「うん、もうすぐ来ることになっているんだけど……どうしたのかな?」
その時――。
バリーンッ!!
突然私の背後でガラス窓が割れる音が響き渡った。
「キャアアアアッ!!」
驚きのあまり叫んだ時――。
「エディット!!」
アドルフ様が私に覆いかぶさってきた。
「うっ!!」
苦しそうなアドルフ様のうめき声が私の上で聞こえる。次の瞬間、アドルフ様は机の上に倒れ込んでしまった。
「キャアアアアアッ!!アドルフ様っ!アドルフ様っ!」
アドルフ様の背中には無数のガラス片が突き刺さり、服を赤く染めている。その姿を見た瞬間、私は恐怖に駆られた。
そ、そんな……せっかくこの世界で巡り会えたのに……また私はお別れをしなければいけないの……?!
「アドルフ様……アドルフ様……死なないで‥‥」
ボロボロ涙を流しながら、ピクリとも動かないアドルフ様に必死で呼びかけた。本当は一刻も早く誰かを呼びに行かなければならないのに、私はこの場を離れるほうが怖かった。
「だ……だい、じょう……ぶだよ‥‥エディット……」
アドルフ様は私を安心させる為か、青ざめた顔で必死に笑顔を見せてくる。その姿が私の涙を誘ってしまう。
「だ……だって、アドルフ様……私を庇って……こんなに血だって流れて……」
涙でアドルフ様の姿が滲んで見える。
「大丈夫……だから……」
そのままアドルフ様は動かなくなってしまった。
「イヤアアアアアアッ!!アドルフ様っ!!」
「どうしのですかっ?!」
「一体何があったのですか!!」
ガラス窓の割れる音と、私の悲鳴を聞きつけて使用人の人たちが駆けつけてきた。
「うわあああっ!!アドルフ様!」
「大変!!アドルフ様がっ!!」
「は、早く医者を!!」
「旦那さまと奥様に知らせなければ!」
大人の人達がバタバタと慌ただしく走り回る姿を……私は涙を流しながら呆然と見ていることしか出来なかった――。
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