第168話 僕の願い

 この日のランチは、何故か自然と僕とエディット。それにサチとセドリックの4人で集まって食事をすることになった。




****


 

「結局、また明日から休みになるなんて……何だか意外だったね」


 食事を終えると、僕は3人に話しかけた。


「そうですね。まさか試験結果を発表する為だけだったとは思いませんでした。こんなことは初めてです」


 エディットも首を傾げている。


「学院側も記念式典の準備と、追試試験に向けての学生たちの補講訓練で余程忙しいのだろうな」


 セドリックの言葉にサチが頷く。


「きっと、そうですよ。でも追試を受ける学生たちが半数近くいるのなら無理ないかもしれないわ」


 そう。実は表彰式が行われた後……学院側から驚くべき内容の発表が行われた。


 赤点を出してしまった学生たちは全員追試の為の補講授業を受けることが義務付けられた。そして僕達のように試験で単位を落とさなかった学生たちは記念式典迄再び休みなることが発表されたのだ。

    



「それにしても、今回の試験随分頑張ったじゃないか」


 向かい側に座るセドリックが笑いながら僕に話しかけてくる。


「本当、すごく頑張ったと思うわ。私も頑張らなくちゃ」


 6位だったサチが食後のオレンジジュースを飲みながら僕を見た。

 

 でも僕は知っている。


 サチは頑張ればもっと良い点を取れるはずだった。だけど、恐らく僕に気を使って手を抜いたに違いない。何しろサチは国立の有名な女子大に通っていた才女だったのだから。



「私も本当に嬉しいです。アドルフ様、これで来年からは一緒のクラスになれますね?」


 エディットが笑顔で僕を見つめてくる。


「うん。そうだね。僕も嬉しいよ」


 僕とエディットは互いに笑みを浮かべながら見つめ合っていると、突然サチが立ち上がった。


「セドリック様。私何だか、カフェでコーヒーを飲みたくなりました。今から行きませんか?」


「あ、ああ!そうだな。それがいい、よし!行こう!」


 素早い動きでセドリックも席を立つ。


「え?だって、今2人とも飲み物を……」


 僕が口を開きかけると、サチが言葉を被せてきた。


「さ、行きましょう!セドリック様!」

「急ごう!」


 サチとセドリックは何故かしっかり手を繋ぎ合うと、急ぎ足で学食を出ていってしまった。

 そして後に残されたのは僕とエディット。


「一体……今のは何だったんだろう?」


「そうですね?どうなさったのでしょう?」


エディットは首を傾げる。


「ところでエディット、今の2人……見たよね?」


「はい、見ました。仲良さそうに手を繋いでいました」


「何だか良い雰囲気に見えたね」


「アドルフ様もそう思いましたか?」


 僕の言葉にうなずくエディット。

 うん、これは……ひょっとすると、ひょっとするかもしれない。


 セドリックは王子であるけれども、サチのことを大事に思っている。それにサチも「コイカナ」の世界の王子に恋していた。


 僕がエディットを好きだという気持ちに気付かせてくれたのは、2人の後押しも合ったお陰だ。


 だからこそ思う。

 例え身分差があったとしても、2人には幸せになって貰いたい――と。


 






 

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