第163話 意外な来訪者
学院が試験休みに入った。
ラモンやエミリオは既に試験結果を諦めて次の追試に向けて勉強しているし、ブラッドリーはもうこの国にはいない。
エディットと会う約束も出来なかった僕は特にすることもなかったので、読書三昧の日々を過ごしていた。
ヴァレンシュタイン家には大きな図書室がある。アドルフとしての記憶が断片的にしか無い僕にとってはここの図書室はまさに宝の宝庫だった。
そこで朝から夜寝るまで図書室に籠もり、僕はすっかり本の虫になっていた。
そして試験休みに入って3日目のこと。
我が家に思いもかけない来訪者があった――。
****
試験休みに入り、3日目――。
朝食後、僕はいつものように図書室に籠もって日当たりの良い窓際の席で本を読みふけっていた。
するとそこへジミーが現れた。
「あの……アドルフ様。実はお客様がお見えになっております」
「お客?ひょっとしてエディットかな?」
少しの期待を込めて尋ねてみたものの、ジミーは首を振る。
「いいえ、違います。いらっしゃった方はお2人で、セドリック様という方とアリス様と言う女性の方です」
「ええっ?!」
セドリックとサチだって?!
まさかの来訪者に当然のことながら僕は驚いた。
**
「やっほ〜お兄ちゃん。遊びに来たよ」
「アリスがどうしてもアドルフのところに行きたいとせがむからね。いるかどうか分からなかったけど、試しに来てみたんだよ」
「こんにちは、2人とも。よく来てくれたね」
セドリックとサチが図書室に現れ、僕は2人を笑顔で迎えた。
「お兄ちゃんたら、試験は終わったのにまた勉強していたの?」
サチが机の上に山積みにされた本と僕を見比べている。
「違うよ、これは小説だよ。この休みの間、ずっと図書室にこもって本を読んでいたんだ」
「流石は真面目だな。何処か遊びに行くなり、すればいいのに」
セドリックが苦笑しながら本をパラパラとめくっている。
「うん。だけど友人たちは追試に向けて勉強しているし、肝心のエディットは試験休みの間は用事があって会うことが出来ないと言われたから仕方ないよ」
「そうだったの?どうして会えないの?」
「それが分からないんだ。何しろ理由を聞いていないから」
「え?何で理由を聞かないんだよ?」
セドリックが驚きの表情を浮かべる。
「うん。エディットがあまりにも申し訳無さそうな顔で、会えないことを謝ってきたから聞けなくて。何だかエディットに悪い気がしてね」
「何でそんなに気を使ってるのよ?」
「嫌われたくないから……かな?」
すると……。
「「はぁああああ〜っ?!」」
2人に呆れられてしまった。
「エディットさんがお兄ちゃんを嫌うはずないでしょう?!」
「ああ、そうだ!こっちが羨ましくなるくらい、ラブラブなくせに!」
「いやあああっ!セドリック様!そんな言葉遣いしないで下さいよぉっ!」
サチが悲鳴を上げる。
そんな2人の騒ぎを見つめながら僕はエディットのことを考えていた。
どうしてなのだろう?
エディットと一緒に手芸店に行ったあの日から、高校時代に付き合っていた彼女のことを時折思い出してしまうようになったのは――。
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