第162話 予期せぬ言葉
「まぁ、エディット。帰りが遅いと思ったらアドルフ様と一緒だったのね?」
ロワイエ家に到着するとエントランスまで夫人が出迎えてくれた。
「こんにちは。ロワイエ夫人。すみません、僕がエディトを誘いました」
「いえ、私がもっとアドルフ様と一緒にいたいとお願いしたのです」
僕が頭を下げると、エディットも一緒に頭を下げてくる。
「まぁまぁ……本当にあなた達は仲が良いのねぇ」
「あ、ありがとうございます……」
夫人の言葉に思わず赤面しそうになる。そこへエディットが声を掛けてきた。
「アドルフ様、応接間でお話しませんか?」
「うん、そうだね。行こうか?」
そして僕とエディットは夫人に見送られながら応接間へと向かった――。
****
「今日で試験が終わって、ほっとしたよ」
応接間でメイドさんの淹れてくれた紅茶を飲みながら、僕とエディットは今日の試験の話をしていた。
「はい、私もほっとしました」
「試験が終わったのはいいけど、試験結果が心配だな……」
エディットと同じクラスになれるように一生懸命勉強を頑張ったつもりではあるけれど、いまいち自信が持てない。
「アドルフ様なら絶対大丈夫だと思います。自信を持って下さい」
「うん、だといいんだけどね。でも多分記念式典パーティーには出れると思うよ。もし僕がパーティーに出れないと、エディットはパートナーがいなくなってしまうだろう?だから必死で勉強を頑張ったわけだしね」
それだけじゃない。何しろ、僕はこの日にエディットに告白をしようと心に決めているのだから。
「私はアドルフ様の実力を信じています。それに……もし仮に出られないことがあったとするなら……私も参加しません」
「え……ええっ?!ほ、本気で言ってるの?」
「はい。その代わり……」
エディットは驚きの提案をしてきた。
けれども……僕は当然、迷わず承諾した――。
****
その後17時までエディットの家に滞在し、ロワイエ家が用意してくれた馬車に乗って送ってもらうことになった。
「エディット、今日はデートが出来て楽しかったよ」
馬車の前で僕は見送りに出てくれたエディットに声を掛けた。
「いえ。私のほうこそ、とても楽しかったです。それでアドルフ様、明日から試験休みで5日間学院がお休みですけど……」
そう、明日からは試験休みで5日間の休みに入る。
「そうだよね。また2人で何処かに出掛けようか?」
たまには2人で遠出をするのもいいかもしれないしな。
けれど、エディットの口からは予想外の言葉が出てきた。
「あの……大変申し訳ないのですが……。お休みの間は用事があるので、アドルフ様と会うことが出来ないのです」
「え?そうなの?」
まさか断られるとは思わなかった。
「はい……。折角のお誘いなのに……ごめんなさい……」
エディットが悲しげに目を伏せた。
「何言ってるんだい?誰にだって用事があるんだから、そんなに気にすることは無いからね?それじゃ、学院が始まったらまた会おう?」
逆に悲しそうな顔をされる方が、今の僕には堪えてしまう。
「はい。分かりました」
「それじゃ、もう行くね」
「またお迎えに上がりますね?」
「うん。ありがとう」
そしてエディットに見届けられながら、僕は馬車に乗り込んだ――。
ガラガラガラガラ……
音を立てて走る馬車の中で、僕は考えにふけっていた。
用事があるって……一体どんな用事だったんだろう?すごく気にはなったけど、聞けなかった。あんなに申し訳無さそうにしている彼女に、どうして理由を尋ねることが出来ただろう。
それに、エディットが一瞬見せたあの悲しげな表情……。何故一瞬「彼女に似ているように見えたのだろう。
2人は全く似ていないのに。
「休みの間、何をして過ごそうかな……」
これから少しの間、エディットと会えない物悲しさに……思わずため息が漏れてしまった――。
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