第152話 宿泊の勧め
結局、食事の最中はずっと伯爵と夫人からブラッドリーについて質問攻めにあってしまった。
かつては親友だったブラッドリーをあまり悪く言いたくは無かったけれどエディットの手前、仕方なくありのままを説明することにした。
僕が彼にされてきた今までのこと。
その度に伯爵と夫人は驚き、最終的にブラッドリーはやはり素行が悪い青年だったということで丸く？収まった。
ボーンボーンボーン……
ダイニングルームに取り付けられた柱時計が20時を知らせる鐘を告げた。
「あの、それではそろそろ僕はお暇しようと思います」
エディットは改めて僕の口からブラッドリーの話を聞いたことで何だか塞ぎ込んでいる。これ以上、ここにいては更に伯爵夫妻から彼についての話をさせられて余計にエディットを落ち込ませてしまうかもしれない。
すると、伯爵が驚くべき発言を口にした。
「そうだ、アドルフ君。折角だから今夜は我が家に泊まっていきなさい。どうせ明日も2人は一緒に勉強するつもりなのだろう？」
「そうね、それがいいわ。すぐに部屋の用意をさせましょう」
夫人まで伯爵の意見に頷く。
「い、いえ。でもそれではご迷惑ではありませんか？第一着替えも持ってきていませんし」
驚いたことに夫人まで僕に宿泊するように勧めてきた。
「だ、だけど……」
いきなり泊まって行くように言われて、戸惑っているとエディットが声を掛けてきた。
「はい、是非泊まっていって下さい」
「ええっ？！」
結局、僕は3人に言われるままに今夜は泊まることになってしまった……。
＊＊＊＊
その後、僕は電話を借りて自宅に連絡を入れさせてもらうことにした。
「……はい、そういうことなので、今夜はロワイエ伯爵家の屋敷に泊めて頂くことになりました。……分かりました。……はい。ではお休みなさい」
チン……
受話器を置くと、同じ部屋で電話を聞いていたエディットが声を掛けてきた。
「アドルフ様、どうでしたか？」
「うん。失礼のないようにと父から言われたよ。ロワイエ家に宜しくとも言っていたしね」
「そうですか。でも許可を頂いて良かったです。それではお部屋に御案内しますね」
「え？エディットが案内してくれるの？」
「はい、そうです。どうぞこちらへいらして下さい」
そして僕はエディットの案内で今夜泊まる部屋に連れて行ってもらうことになった。
＊＊
「こちらのお部屋になります」
エディットが足を止め、扉を開けてくれた。
「うわぁ……広い部屋だね。しかもすごく豪勢だ」
案内してもらった部屋はまるでホテルのデラックスルームのように素晴らしかった。
大きな掃き出し窓には品の良いモスグリーンのカーテンが引かれている。ベージュの毛足の長いカーペットは歩き心地がよく、部屋に置かれた家具はどれも一級品だった。
何より目を引くのが天蓋付きのベッドだ。
「こんな凄い部屋に泊めてもらっていいの？」
「はい、勿論です。アドルフ様は特別なお客様ですから」
エディットが笑みを浮かべながら頷く。
「特別……」
特別って、一体どういう意味の特別なのだろう？
「お客様用に衣類はクローゼットに用意してあるので、どうぞそちらをお使い下さい」
「うん、ありがとう」
2人で話をしているときに、不意に伯爵が姿を現した。
「アドルフ君。少し2人きりでこの部屋で話をしたいのだが、いいかな？」
「え？え、ええ……」
頷くと、次に伯爵はエディットの方を向いた。
「エディット、お前はもう部屋に戻りなさい」
「はい、分かりました。それではお休みなさい。お父様、アドルフ様」
「うん、おやすみ」
「お休みさない」
伯爵と僕はエディットに交互に挨拶を返すと、彼女は部屋を出ていき……部屋の中は僕と伯爵の二人きりになった。
「それではアドルフ君。2人で話をしようじゃないか？」
「は、はい」
そして……この後僕は、伯爵からエディットも知らなかった意外な話を聞かされることになる――。
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