婚約者はこの世界のヒロインで、どうやら僕は悪役で追放される運命らしい

第133話 ヒロインへの報告

「アドルフ様、試験の方はいかがでしたか？」

馬車が走り出すと、早速エディットが話しかけて来た。

「うん、思った以上に良くできたよ。ひょっとすると歴史の試験の時よりも点が取れるかもしれない」

「え？」

するとエディットが驚いた様に目を見開いて僕を見つめる。

「エディット？どうかした？」

「いえ。少し驚いているだけです。今日の古代文字の試験はかなりむずかしかったようですから。私のクラスでも試験が終了したときに、かなりの人達がため息をついていました」

「そうだったんだ」

Aクラスの学生たちがため息をつくくらいだから、相当難しかったのだろう。何だかその話を聞いていると自信が無くなって来た。ひょっとすると僕は間違えた答えを堂々と書いていたのだろうか？

「でも、アドルフ様なら大丈夫です。一緒に勉強していて確信しました。きっと良い点を取れると思います」

「ありがとう。エディットのお陰だよ。何かお礼しなくちゃね」

まだ試験結果は出ていなかったけれども、僕の為に時間を割いてくれたエディットの為に何かしてあげたかった。

「い、いえ。お礼なんていりません。私はただ、アドルフ様と一緒に勉強をしたかっただけですから……」

俯いて真っ赤な顔をするエディットは、やっぱりとても可愛らしかった。さすが、『コイカナ』のヒロインだ。

だからブラッドリーもエディットのことを……。

「アドルフ様、どうかしましたか？」

エディットが怪訝そうな顔で声を掛けて来た。

「うん、実はブラッドリーのことだけどエディットは知ってるかい？」

「いえ…‥？特に何も聞いてはいませんが」

「そうか。やっぱり知らなかったんだね。クラスも違うし、あまり公にしないほうがいいかもしれない話だからかな」

「え？一体何があったのですか？」

「うん。実はブラッドリーが停学処分になって、記念式典パーティーに参加する資格も取り上げられたらしいよ」

尤も、今日の古代文字の試験を受けてもいないブラッドリーはどのみち参加資格を得られるはずもない。

「そうだったのですか？でも何故ですか？」

この話をすればエディットはブラッドリーに関する心証を悪くするかもしれない。まるで彼の悪事を言いつけるみたいで、あまり気が進まなかった。

だけど、僕はこれまでに何度も彼のせいで危険な目に遭わされてきたのは確かだ。

「エディット。驚くかもしれないけれど……聞いてくれるかな？」

「はい」

頷くエディットに僕は語り出した。何故馬術の時間に事故が起こったかを――。

＊＊＊＊

「そ、そんなことがあったのですか……？」

エディットの顔が真っ青になっている。

「うん、馬術教師に問い詰められたブラッドリーがそのことを認めたらしいんだ。それで彼は停学処分になったんだよ」

「でも、何故ブラッドリー様はそんなことを……？」

「うん、そうだね。何故なんだろうね」

本当は理由は十分すぎるくらい分かっていた。ブラッドリーは僕に嫉妬していた。だからあんな真似を……。

だけど、エディットには理由は言えなかった。言えば自分を責めそうだったからだ。

ブラッドリーが何故、あんな真似をしたのかは……彼が自らエディットに理由を説明するまでは、黙っていよう。

これ以上、僕はエディットを傷つけたくは無かったから――。

＊＊＊＊

「エディット、今日も送ってくれてありがとう」

屋敷に到着し、馬車から降りるとエディットにお礼を述べた。

「いえ、それではまた明日お迎えに参りますね」

馬車の窓から顔を出したエディットが笑いかけて来る。

「うん、待ってるよ」

「は、はい」

エディットは頬を赤らめ、頷いた。

　その後、エディットを乗せた馬車が見えなくなるまで見送ると、そのままヴァレンシュタイン家の繋ぎ場へ足を向けた。

ブラッドリーと会って、話をつける為に――。