第104話 悪役令息、説教される
午後7時半――
食事を終えて自室で地学の課題であるレポートを書いていると、ノックの音と同時に、ジミーの声が聞こえてきた。
『アドルフ様、少々宜しいでしょうか?』
「うん、どうぞ」
声を掛けると、「失礼します」と言いながらジミーが扉を開けた。
「何?どうかしたの?」
ペンを置くとジミーに声を掛けた。
「はい、実は学院の友人を名乗る方がいらっしゃっているのですが……」
「友人?」
一体誰のことだろう?エディットやブラッドリーだったら名前を言うはずだし……。
「その人は何ていう名前なのかな?」
「はい、セドリック様というお方です」
「えっ?!」
セドリックだってっ?!
一体何の用が合って訪ねてきたのだろう?でも彼にはエディットのことは説明して置かなければ。
「ありがとう、それで今彼は何処にいる?」
「は、はい。実はもう……こちらにいらしているのです……」
そしてジミーの背後からセドリックが現れた。
「こんばんは、アドルフ」
そしてセドリックは僕を見ると笑った――。
****
「悪かったな、お兄さん。突然訪ねてきて」
ソファに向かい合わせで座ると、早速セドリックが話しかけてきた。
「いや、それは別に構わないけど……一体こんな時間にどうしたんだい?」
「アリスがすごくお兄さんとエディットのことを心配していたから俺が様子を見に行ってくると約束したから、ここへやってきたんだよ。それで?エディットには告白出来たのか?」
どう見ても僕のことを気にかけているというよりは単なる好奇心のように見えるけれども……でも仕方ない。
どのみち、2人には明日エディットとの関係が破綻してしまったことを告げるつもりだったのだから。
「うん……それが実は……告白することは出来なかったんだ」
「は?何でだよ?あれ程俺とアリスでエディットに告白するように言ったじゃないか?なのに何で告白しなかったんだよ」
セドリックが身を乗り出して来ると、更に追求してきた。
「まさか、初めから告白するつもりはなかったのか?俺とアリスに嘘をついていたのかよ?」
明らかにセドリックは不満そうだ。
「それは違うよ。本当にエディットには告白するつもりで彼女の家に向かったんだから」
「だったら何故告白しなかったんだよ?ひょっとして会えなかったのか?」
「いや…。会えたよ…。だけど……」
ひょっとすると……会えなかった方が良かったのだろうか……?
今日、エディットが誰とも会えていなければこんなことには……。
「お兄さん、どうしたんだよ?何だかいつもにもまして様子がおかしいぞ?」
いつにもまして……?
そんなに僕は様子がおかしいだろうか?
「まぁ、いいか。実はね、エディットのお見舞いに行ったらブラッドリーがいたんだよ。彼は家の用事があるって言っていたのに……実はエディットのお見舞いに来てたんだよ」
「何だって?ブラッドリーって……この間の休みの日、お兄さんと一緒にいた男か?」
「うん、そうだよ」
「なるほど、あいつか……。やっぱり俺の思った通りだったな。あいつ、エディットに気があるんじゃないのか?」
「えっ?!良く分かったね?」
「まぁな……何となくそんな予感がしたんだよ。それでそのブラッドリーはお兄さんに嘘をついて、エディットのお見舞いに行ってたのか?」
「それは……もしかすると、家の用事が終わってエディットのお見舞いに行ったのかも知れないし……」
ブラッドリーが嘘をついたとは信じたくなかった。
「はぁ〜ばっかだなあ!そんはなずないだろう?要はブラッドリーは抜け駆けして見舞いに行っただけの話じゃないか」
「……」
信じたくは無かったけれども、やはりそうなのだろうか……?
「それで?その後はどうなったんだ?」
「うん、結局ブラッドリーは僕が来たらすぐに帰って行ったよ。去り際に僕に『ごめん』と言ってね」
「何だ?あっさり帰ったのか?だけど『ごめん』なんて、それこそ確信犯である証拠だ。けれどそれならエディットに告白出来たじゃないか?」
セドリックが首を傾げる。
「それが……」
僕はセドリックに正直に話すことにした。
もう一緒に登下校するのも、ランチを一緒に食べるのもやめようとエディットに告げたことを白状した。
それは恐らくエディットとブラッドリーが好き合っているのでは無いかと思ったからだということも……。
「な、何だって〜っ?!そ、そんな事をエディットに言って泣かせたのかよ!最低だなっ!大体エディットがブラッドリーを好きかどうかなんて分からないだろう?直接本人に尋ねたわけでもあるまいし!」
「う、うん……確かにそうなんだけど……」
「あ〜全く……もういい!明日から俺とアリスがエディットとランチを一緒に過ごすことするからなっ!せいぜいウジウジ悩んでろよ!」
セドリックは乱暴に立ち上がった。
「うん……僕がこんなこと言えた義理では無いけれども……。どうかエディットを頼むよ。傷ついた彼女を慰めて貰えないかな……?」
「……何でだよ?そこまでエディットの事を思っていながら……」
「……」
だけど彼の質問には答えられなかった。
エディットもブラッドリーも…僕にとってはかけがえの無い存在だったからだ。
「チッ!後で後悔しても知らないからな。それじゃ俺は帰る」
セドリックは乱暴に立ち上がった。
「見送るよ」
「いい、女じゃあるまいし見送りなんかいるかよ」
それだけ言うと、セドリックは部屋を去っていった。
「はぁ〜…」
部屋に1人になると、益々自己嫌悪に襲われる。
「いっそのこと、また何もかも忘れて記憶喪失になりたいよ……」
ため息混じりについ、言葉が口をついて出てしまった――。
**
そして、その夜僕は夢を見た。
アドルフの記憶の底に眠っていた子供の頃のある夢を――。
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