婚約者はこの世界のヒロインで、どうやら僕は悪役で追放される運命らしい

第96話 神経をすり減らす悪役令息

「あ、あの！実は僕達は……」

思わず大きな声をあげそうになり、サチに小声で注意された。

「お兄ちゃん、声大きすぎ」

「え？あ……そ、そうだったね」

すると女性店主さんが首を傾げた。

「お兄ちゃん？お2人は兄妹なのですか？でも……こう言っては何ですが……あまり似ていないような気もしますけど……？」

その言葉はやけに意味深に聞こえた。

するとセドリックが腕組みしながら頷いた。

「まぁ、確かに似ているはずはないか。何しろ今の2人は本当の兄妹じゃないからね」

「まぁ……それではひょっとして……？」

女性店主はキョロキョロ辺りを見渡し、僕達意外に人が近くにいないことを確認すると、手招きで顔を近づけるように指示してきた、

「「「……」」」

何事かと顔を近づける僕達。

すると、女性店主さんは衝撃的な話を口にした――。

＊＊＊＊

　店を出た僕達3人は、喫茶店で食事をしながら話をしていた。

「それにしても驚きだな……」

「うん、私も驚いてるよ」

ポツリと呟く僕に、サチがウンウンと頷く。

「まさか、この店の店主まで僕達と同じ日本の転生者だったとはな……うん、美味しい」

セドリックは自分のテーブルの上に運ばれたナポリタンを嬉しそうに食べている。

「しかもここ、『カナレア』市に集中しているなんて……」

サチも自分が頼んだタラコパスタをじっと見つめているし、僕の前にはケチャップがたっぷりかかったオムライスが乗っている。

「そう言えば、この間エディットと一緒に行った『ランタンフェスティバル』でフライドチキンやポテトがあったよ。もしかしたらあの屋台の店主も日本からの転生者だったのかもしれない。あ！それだけじゃないよっ！この間は学食でカレーライスを食べたんだっけ！」

いつの間にか僕は興奮のあまり大きな声で話していた。

「お兄ちゃん！興奮し過ぎだってば！」

「皆がこっちを見てるぞ！」

「ご、ごめん！と、とにかく食べようか……？」

サチとセドリックに指摘され、慌てて小声で2人に謝った。

「そうよね。冷めない内に」

「食べながらでも話は出来るしな」

こうして僕達はボソボソ会話しながら食事を再開した。

　僕達3人が訪れた雑貨屋の店主さんの話では、この『カナレア』市には日本からの転生者が意外と多くいるらしい。

「もしかして、皆口にしていないだけでこの世界の全員が元日本人だったりしてな〜」

セドリックはサラリと恐ろしいこと言ってのけた。

「何言ってるんだよ、そんな筈無いさ。何しろブラッドリーはサチが書いた日本語の手紙を読むことが出来なかったんだから。そんな事ありえないって」

アハハハと笑う僕。

すると……。

「何ですってっ？！お兄ちゃん！いくら日本語で書いたからって、ブラッドリーって人に見せちゃったの？！2人だけの秘密の手紙だったのに！」

サチが目を釣り上げて僕を睨みつける。

「う、うわぁ！ご、ごめん……！ほ、本当は見せるつもりなんか無かったんだよ！だけどやむにやまれぬ事情があったんだよ…。本当にごめん！」

平謝りにサチに謝る。

すると、今度はセドリックがサチに詰め寄る。

「アリスッ！2人だけの秘密の手紙って一体どんな内容の手紙なんだよっ！」

「えっ？！そ、それは……！」

今度はサチが狼狽える番だった。

何しろあの手紙にはセドリックの悪口的？な内容が書かれていたのだから。

「2人とも…少しは落ち着こうよ」

険悪な雰囲気になってきた2人を宥めるために声を掛けた。

すると、あろうことか今度は2人が僕を責めだした。

「元はと言えばお兄ちゃんが手紙を友達に見せたからだよ！」

「そうだ！お兄さんが悪い！」

「ええっ？！な、何で僕が…！」

結局……その後僕は2人を必死で宥め、神経をすり減らす事になるのだった。

そして思った。

エディットに会って癒やされたい……と――。