第95話 悪役令息、妹と王子と外出する
「実は昨日、エディットと町を歩いていたらクリスマスツリーが飾ってある店を見つけたんだよ!」
興奮気味に2人に教えた。
「何だって?!」
「本当にっ?!」
セドリックとサチが同時に声を上げる。
「本当にクリスマスツリーだったの?!他の物と見間違えじゃないよね?」
サチがズカズカと近付いてくると、僕の襟元を掴んでグイッと引き寄せてきた。
「ほ、本当だって!クリスマスツリーを見間違える筈ないじゃないか!」
大体何とクリスマスツリーを見間違えると言うのだろう?
「おいっ!2人ともっ!いくら前世で兄妹だからと言っても距離が近すぎる!それに今は2人とも他人同士なんだろっ?!いいから離れろよっ!」
セドリックが僕とサチの間に割って入ってくる。
「いやああっ!だから、王子様なんだからそんな言葉使いはやめてくださいっ!」
王子様という存在に夢を抱いているサチが叫ぶ。
こうして、少しの間応接室は騒ぎに包まれた――。
****
「この辺にお兄ちゃんの話していたお店があるの?」
周りに建ち並ぶ店をキョロキョロと見渡しながらサチが尋ねてきた。
「アリスと一緒に帰った時は気づかなかったけどなぁ……」
サチに続いてセドリックも首を傾げる。
「本当だって、間違いないよ。現に昨日僕はエディットと2人でその店に入ったんだから」
あの後、僕達は3人で昨日エディットと2人で訪れた店に行くことが急遽決定した。
そして今町に出てきて、例の店目指して歩いているのだけれども……。
「それにしても怪しいな〜…私達みたいに前世が地球人だった人が他にもいるなんて」
「そうだな、僕もアリスと同じ意見だよ」
どうにも2人は僕の話を疑っている節が見える。
「とにかく、僕を信じてくれるかな?店主さんから貰ったメモ紙だって2人にみせたよね?」
僕はあの謎のメモも既に2人に見せていた。
「だけど、あのメモには自分の前世が地球人だったって事は書かれていないじゃない」
「ま、まぁ……たしかにそうなんだけどね」
どうも昔から僕は妹に弱い。
母親を亡くしてからは、仕事で忙しい僕の代わりに家事仕事を全てやってくれていたから頭が上がらなかったっけな……。
その時――。
「あ!あの店じゃないかっ?!」
突如、セドリックが大きな声を上げて通りの店を指さした。
そしてその先には、大きなクリスマスツリーが飾られている様子が窓から見えている。
「嘘っ!ほ、本当にクリスマスツリーだわ!この世界にはクリスマスは存在しないはずなのにっ!」
「信じられないな……。王子としてこの世に再び生まれて18年。一度もクリスマスツリーなどみたこともなかったのに…!早く行ってみよう!」
妙に説明がかった言い方をするセドリック。
2人とも、すっかり興奮状態になっている。
「それじゃ、皆で行ってみよう」
「うん!」
「当然っ!」
そして僕達は3人で店に向かった――。
カランカラン
ドアベルを鳴らしながら扉を開けると、相変わらず店の中はクリスマスムード一色に染まっていた。
天井や壁にはクリスマスのオーナメントや、リースが飾られている。
また、棚に並べられている商品はサンタやトナカイの刺繍の入った布小物や木製の飾りと言った雑貨が所狭しと並んでいる。
店の中には10人前後の様々な客層のお客の姿があった。
そしてお客達の目当ては、当然クリスマスツリーだった。
「凄いな、木に飾り付けなんて初めて見たよ』
「でもとってもお洒落よね〜」
「どうしててっぺんに星の飾りがついているのかな?」
「私もこの木が欲しい〜」
「ねぇ、あの人達の反応見る限りはクリスマスなんて知らなそうだよね?」
サチが小声で僕に話しかけてきた。
「うん、そうだね」
返事をしたその時、不意に背後から声を掛けられた。
「あら、お客さん。やっぱり来てくれたんですね?しかもお友達まで連れて」
「え?」
振り向くと、意味深な笑みを浮かべたあの女性店主が僕達の背後に立っていた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます