第79話 悪役令息、嫉妬される
勉強を頑張るとエディットに誓った僕は1時限目から4時限目までの授業を熱心に受けた。
先生の言葉を一語一句聞き漏らすまいと耳を傾け、周りで悪友たちが心地よく眠っている姿を後目に真剣にノートを取った。
お陰で4時限目が終わる頃は、ペンだこが出来てしまう程だったのだから――。
****
キーンコーンカーンコーン……
昼休み開始の鐘の音が校舎内に響き渡る。
「ふわぁ~…今日も良く寝たなぁ…」
ラモンが大あくびをしながら伸びをする。
「俺なんか、夢見てしまったよ。変な寝言言ってなかったか?」
エミリオが僕に尋ねて来た。
「う~ん…そう言えば腹が減ったと呟いていたけど、あれはひょっとすると寝言だったのかい?」
僕の答えにエミリオが立ち上がった。
「そうなんだよ!今朝は寝坊して朝食抜きだったんだ……早く学食へ行こうぜ!」
「そうだな、行くか。アドルフ、お前も来るんだろう?」
ブラッドリーが声を掛けて来た。
「あ、ごめん。今日からは毎日エディットと一緒に昼食を食べることになったんだ」
「ふ~ん……そうか。だがな、嫉妬には気を付けろよ」
ブラッドリーが気になる台詞を言った。
「え?嫉妬?」
その時、背後で何やら痛い視線を感じて振り向いた。
「う……」
そこには僕のことを射殺す?かの如く、睨みつけているビクトリアたちの姿があった。
「うわぁ~…おっかねぇなぁ……女の嫉妬って恐ろしいな」
「ああ、全くだ。やっぱり嫉妬深い女には近づかないほうがいいな。俺達彼女達からパートナーに断られて正解だったよ」
ラモンにエミリオは他人事だと思って好き勝手なことを言い合っている。
「ほらよ、何してるんだ?エディットが待ってるんだろう?早く行ってやれよ」
ブラッドリーが手で追い払う仕草をする。
「う、うん。分かった。行ってくるよ」
僕はビクトリア達の恨めしい視線から逃げるようにカバンを持って教室を飛び出すとため息をついた。
「ふぅ~…参ったな…。あんなに彼女たちに執着されるなんて……一体アドルフは何やってるんだか……」
思わずぼやきながら、エディットとの待ち合わせ場所である中庭へ急ぎ足で向かうことにした――。
****
急いで中庭へ来たお陰で、まだエディットの姿は無かった。
「良かった……先について」
やっぱり女の子を待たせるわけにはいかない。
サチと外で待ち合わせするときも、いつも僕が先に待ち合わせ場所に到着するようにしていたし。
幸い、今日も中庭には人がいなかった。
僕は早速ガゼボに向かい、扉を開けて中へ入った。
「ヘ〜…中は温かいんだな」
まるでバンガローのような作りの六角形の形のガゼボは窓も扉もついているので、外の冷たい空気が流れ込んでくることはない。
大きな窓からは太陽の日差しが差し込み、ガゼボの中は温室にいるみたいに暖かだった。
「う〜ん……一応、エディットの為に用意してきたけど…いらなかったかな……?」
その時ガゼボの扉がノックされる音が聞こえてきた。
コンコン
振り向くと、そこにはバスケットを持って笑顔で手をふるエディットの姿があった。
「エディット、待っていたよ」
すぐに扉を開けて中へ招き入れた。
「アドルフ様、もういらしていたんですね?」
「うん。午前の授業が終わってすぐに来たからね」
中へ入ってくると、エディットは早速バスケットをテーブルの上に置いた。
「楽しみだな。エディットが作ってきてくれたランチ」
ベンチに座ると、エディットも僕にならって隣に腰掛けると尋ねてきた。
「あの、アドルフ様。ランチとは何ですか?」
ああ、そうか。
この世界では『ランチ』という言葉は存在しないのか。
「ランチって言うのはね、別の国で昼食のことを言うんだよ」
うん、別に間違えた言い方はしていない……はずだ。
「ランチ……この言葉も響きがいいですね」
エディットはランチと言う言葉が気に入ったみたいだ。
「それじゃこれから2人きりのときは昼食と言わずに、ランチって言おうか?」
「そ、そうですね。2人きりのときは……ランチと言いましょう。何だか……私とアドルフ様だけの共有の秘密みたいで…嬉しいです…」
顔を赤らめながら僕を見つめるエディットの姿に、思わず僕まで赤面しそうになってしまった。
「あ…アハハハ…。そ、それじゃエディットの作ってきてくれたランチを見せて貰おうかな?」
心の動揺を誤魔化す為に笑いながらエディットに声を掛けた。
「あ、申し訳ございません。今開けますね」
エディットがバスケットの蓋を開けると、そこには色々な具材の挟まったロールパンがぎっしり並べられていた。
定番のハムやチーズが挟まった具材や、スクランブルエッグの具材、ポテトサラダや中にはフルーツサンド迄、様々な種類のロールパンサンドが色とりどりに綺麗に並べられている。
……これだけの量を用意するのは相当大変だったに違いない。
「すごいね……どれもとても美味しそうだね。こんなに沢山用意するのは大変だったんじゃないのかい?」
「ええ…でも、どんな具材ならアドルフ様がお好きなのか分からなかったので……つい作りすぎてしまいました。でも楽しかったです。アドルフ様のことを思いながら作るのは」
「エディット……ありがとう。とても嬉しいよ」
僕が、エディットの言葉に感動したのは……言うまでも無かった――。
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