第13話 ヒロインを見送る僕
エディットに創立記念パーティーの申し込みをした後、僕は彼女を馬車まで送り届けた。
エディットをエスコートして屋敷前に停まっている馬車に乗せてあげると、恥ずかしそうに顔を赤らめて僕にお礼を述べて来た。
「あ、あの……本日もどうもありがとうございました」
「僕の方こそありがとう。ケーキを届けてくれて嬉しいよ」
やっぱり苦手な物を貰っても、お礼を述べるのが社交辞令だからね。
「ありがとうございます。まさかアドルフ様からそんなお言葉を頂けるなんて思ってもいませんでしたから…。それでは今度は違うケーキを焼いてお持ちしますね」
「えっ?!ほ、本当に?!」
思わず声が上ずってしまった。
しまった。又僕はエディットを傷つけてしまったかもしれない。
彼女の悲し気な顔は本当に苦手なんだよな‥‥。
恐る恐る様子をうかがうと、何故かエディットは笑みを浮かべている。
「そんなに喜んでいただけるなんて嬉しいです……。私、もっとアドルフ様に喜んで頂けるようなケーキを作れるように頑張ります」
「本当かい?それは嬉しいな」
もうその気持ちだけで十分だよ。甘いお菓子は本当に苦手なんだ……とは口が裂けても彼女の前では言えない。
「はい。後、記念パーティーではパートナーになって頂き…そ、そのありがとうございます‥‥。2人で一緒にパーティーに参加するのは初めてなので、アドルフ様に恥をかかせないように、頑張りますね?」
未だに僕が怖いだろうに、頑張って言葉を紡ぐエディットを見ていると過去の自分が本当に嫌になってくる。
これからは出来る限り彼女に親切にして‥‥罪滅ぼしじゃないけれど、真のヒーローと結ばれるように陰ながら協力してあげなければ。
「そんなに頑張ろうと思わなくていいよ。いつも通りのエディットでいてくれればいいんだから。それにパーティーまでは、後一カ月もあるのだからそんなに気負う必要は無いからね?」
エディットを安心させる為に笑みを浮かべながら言い聞かせた。
「は、はい。分かりました。それでは明日ですが…‥」
え?!
また明日も僕の所へ来るつもりなのだろうか?!
「明日は試験勉強をされるのですよね?」
エディットの口から出てきた言葉は予想外の物だった。
「え?試験?」
試験‥‥そんな予定、あっただろうか?
駄目だ…馬に蹴られて前世の記憶が戻ったのはいいけれども、どうも今世の記憶が所々抜け落ちているようだ。
「あ……。もしかすると、記憶が混濁されていると仰っておられましたが…試験のことを忘れられていたのはそれが原因なのでしょうか?大丈夫ですか?アドルフ様」
エディットが心配そうに尋ねてくる。
本当に優しい女性だ。
あんなに酷いことばかりしてきた僕のことを心配してくれているのだから。
「うん…多分馬に蹴られたショックで、まだ一部記憶が取り戻せていないのかもしれない。それで‥‥あの~悪いんだけど…」
「はい、何でしょう?」
首を傾げるエディット。
「明後日の試験の科目と範囲を今分かれば教えて貰えるかな…?」
「ええ、勿論です。明後日は歴史の試験で範囲は教科書の30頁から60頁です」
「歴史?」
「はい、そうです」
「歴史かぁ……」
歴史の試験なら教科書を丸暗記すれば何とかなるかもしれない。
「あの‥‥アドルフ様、どうかされましたか?」
「いや、何でも無いよ。エディットが教えてくれなければ危うく何も勉強しないで試験に臨むところだったよ。本当にありがとう」
エディットに頭を下げた。
「そ、そんな…。でもお役に立てて良かったです。それでは私……そろそろ行きますね」
「うん、気を付けて帰ってね。そうだ、今度ケーキのお礼と試験のことを教えてくれたお礼をさせてよ」
「え?わ、私に…お礼ですか?」
「そうだよ。迷惑でなければね?」
何しろこれから沢山エディットに親切にして‥‥今までの彼女に対する謝罪と、将来的に追放される未来を食い止めなければならないのだから。
「ありがとうございます。楽しみに待っていますね」
「うん、待っていて?」
「はい」
エディットは嬉しそうに笑った。
そしてエディットは馬車に乗って帰って行った。
僕はエディットの馬車が見えなくなるまで見送ると、自室へ足を向けた。
明後日の試験勉強をする為に。
よし、今日と明日は1日中部屋に閉じこもって勉強しよう。
僕は心に決めたのだったが……翌日、思いがけない邪魔が入ることになる――。
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