珈琲とラスクとそれから

@mooo__

夜の宝石

 この世界を照らす輝きが消えたとき、私たちはどんな表情をするのだろう。どんな感情を抱くのだろう。どんな言葉を伝うのだろう。そんなこと、誰も知りやしないこと。なのに私は、ふと考えてしまう。

 暗い空に佇む満天の星。そして、星たちに囲まれた大きな大きな月。彼らが私を見つめたとき、それは私が生きるとき。


 夜というのは、なんて素朴なものなのだろう。一瞬の風に身を任せれば、私の指は軽やかに踊り出す。隣合わせの花弁に挨拶をして、するりと撫で合い微笑み合う。誰かの靴底が、冷めきったコンクリートを擦り鳴らす。


 月が刻々と落ちてゆく。星が悠々と消えてゆく。今日という日が終わりを告げる。目を閉じれば聴こえてくる、朝の予兆。太陽が準備を始め、空気が行進をする。

 鼻をそそぐ春の匂い。甘く、淡く、透き通る匂い。私の好きな、春の匂い。ふわりと動く口角に、蝶々の羽がうごめいた。もぞもぞと揺らぐ息の根が、私の胸を刺激する。


 夜が明ければ、もうこない。たった一粒の宝石が、私に光を与えている。「さあ歩け」と背中を見つめ、そうしてどこかへ飛んでゆく。

 夜の宝石が、いまかいまかと沈んでゆく。

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