Extend
@takamatiminato
第1話 終わりの日始まりの日
あぁ、派手に燃えてるな。
自分の生まれ育った家が燃えるなか、笠原雅也はどこか他人事のようにそう思っていた。
そんな少年の足元にはつい数分前まで両親だったモノ。そして眼前には、今は意識を失っている三つ年の離れた妹と、その妹のこめかみに拳銃を突きつけてる黒衣の男。
「ったく、こんなに派手に燃やしやがってガキが。回りの家まで燃え広がってねぇだろうな?」
頭をかきながらそうぼやく男。その言葉に、雅也は目の前の惨状が悪夢や幻覚ではなく、確かに今起きていることだということを理解した。
「ふざ……けんなよ」
「あ?」
「こうなったのも全部、お前が、お前が父さん達を!」
絞り出すように吐き出し、自らより二十センチは背の高いその男を見上げ、睨み付ける。すると、男は一瞬呆気にとられたようにキョトンとするが、直ぐに口角を上げて笑みを浮かべ。
「何を言い出すかと思えば。いいか、ボウズ。お前の両親は、処分対象となった自分達の娘を庇い、あろうことか処分の妨害をした。それは許されざる重罪だ」
「だからって。それにそもそも妹は、紅葉はいじめてきたクラスメートに能力で軽い火傷を負わせただけで」
「あぁそうだな。まだ十歳のガキだし、両親や教師に叱られ、相手の親になじられ、それで済んだんだろうな。もし、コイツがエクステンダーじゃなければだけどな」
エクステンダー。男のその言葉に、雅也は下唇を噛んだ。その姿を確認し、男は大業に両手を広げ。
「新たなる人類の可能性、進化の形、エクステンダー。だからこそ、厳格に、厳重に管理しなければ」
どこか芝居じみた言葉。するとそれと同時、燃えた天井の板がバチッという音を立てて、雅也達のすぐ近くに崩れ落ちた。
それを見て雅也は理解した。この場所も長くは持たないと。そして、それは男も同様なようで。
「だからこそ処分しなければ。僅かでも道理から外れ、持たざるモノにとって畏怖の対象になりえる者は」
男の表情から温度が消え、そして。
「や……やめろ。やめて」
雅也の懇願もむなしく、無慈悲な銃声が鳴り響いた。
それから、どれだけの時間が経ったのだろうか。気が付くと、雅也は人通りの少ない、僅かばかりの外灯が照らす夜道を歩いていた。けれどその足取りはおぼろで、いや、足取りだけではない。あの燃える家からどうやって外へ出て、そして自分が今どこへ向かって歩を進めているかも理解できていないのだ。
けれど、ただ一つ理解しているのは、両親も妹もこの世にはもうおらず、そして、たった一つ帰るべき家も燃え朽ちた。
その事を自覚すると涙が溢れ、視界がさらに歪み、雅也は足をもつれさせその場に転倒した。
痛みは感じない。いや、それどころか……。
このまま起き上がらなかったら、楽になれるのではないか。
そんなことが、脳裏をよぎった時だった。
「おや君は。先程の」
耳に届いたのは、女性の声。
雅也が顔を上げると、そこには白衣姿の二十代半ばぐらいの女性がいた。
女性は何やら思案に更けるが、直ぐに考えがまとまったのか笑みを浮かべ、倒れたままの雅也に手を差しのべた。
「行くところがないのだろう? なら、私のところに来なさい」
今でも夢で見る。
これが笠原雅也の日常が終わった日で、エクステンダー笠原雅也の始まりの日。
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