第8話 ネコになってみたいニャン大作戦!(1)
「今日はみんなに残念な報告があるのだ」
緑川本部長が作戦室にやって来て、サイコレンジャーのメンバー達を前にして、深刻な表情でそう話した。
「残念な報告とは、どういうことですか? 本部長」
「うむ、実はな。組織が資金難なのだ」
レッドの質問に対して、返って来た本部長の言葉に一同がざわついた。
「グッズの売上やヤーチューブの再生回数。いずれも頭打ちで、飽きられてきた感は否めない。このままでは新兵器の開発もままならんのだ」
女傑と言われる緑川本部長も資金不足には頭を悩ましているようだ。
「そこでだ。サイコレンジャーの人気回復策としてある作戦が立案された。名付けて『猫にニャってみたいニャン大作戦』だ」
「猫にニャってみたいニャン?!」
一同が驚きの声を上げる。だが本部長はそんなメンバー達を無視して話を続ける。
「そう、猫人気の力を借りてこの難局を乗り越えるのだ。
今後は特別に開発した猫仕様の戦闘スーツを着て戦って貰う。あと、常に会話は猫語で話すこと」
(そんな戦闘スーツを開発するお金があるなら、新兵器に回せば良いのでは?)
ブルーは心の中で呟いた。
「雑誌やテレビの取材もバンバン入れるから。みんなそのつもりで活動するように。質問は受け付けない。今話した内容が全てだ。以上!」
後ろめたい気持ちがあるのだろうか。本部長はメンバー達の質問を全く受け付けず、有無を言わせぬ態度で去って行く。残されたみんなはポカーンと呆気にとられてしまった。
だが、それも一瞬のことで、事態を深刻に捉えたみんなは無言で腕組みしながら考え出す。機構本部は半自給自足で、国からの援助もあるが、自分達の稼ぎが無いと活動を続けられない。資金難は深刻な問題なのだ。
「本部長あんニャこと言ってたけど、みんニャどうするニャ?」
ブラックが沈黙を破って立ち上がり、みんなに問い掛ける。
「ちょっと待つニャ。俺は犬派ニャんだよ。だから、犬に変えて貰うように交渉したいニャ」
ブルーは断然犬派だった。彼は豆柴以上に可愛い生物はこの世にいないと思っている。
「ニャにを馬鹿なことを言ってるニャ! 世間は猫派で大勢は決しているニャ。犬派ニャんてきのこの山と一緒で負け組ニャんだニャ!」
「俺はきのこの山も好きニャんニャ!」
「ちょっと、待ってくれ。二人ともいきなり猫語で話し始めて、どうしたんだよ」
ブルーとブラックの言い争いに、レッドが困惑した表情で入ってくる。
「ハヤテニャン、あなたはリーダーニャんですニャ。今はみんニャで危機を乗り越える時ニャんですニャ。あたなが手本を示さニャいでどうするんですニャ」
「も、申し訳ない……ニャ」
ピンクに叱られてシュンとするレッド。
「とりあえず、猫仕様の戦闘スーツも気にニャるので、変身してみようじゃニャいか」
イエローの提案に乗り、みんなで変身することとなった。
「ニャイコチェンジ! ニャ!」
全員同時に戦闘スーツに変身する。その姿は、まるで猫の着ぐるみを着ているようだった。
頭の上についている猫耳。スーツから生えているモフモフの猫毛。両手の平には大きな肉球が付いている。
(これ、どうやって戦うんニャ?)
ブルーは自分の両手をマジマジと眺めた。
「うおおお! 今俺は猛烈に感動してるニャン! 猫にニャりたいぐらいの猫好きだったんニャが、ようやく夢が叶ったニャン!」
(マジニャのか! 涙を流さんばかりに感激してる剛士がニャンだか可愛く見えてくるニャン。猫仕様スーツ恐るべしニャン)
「ニャーン、凄く可愛いニャン!」
ブラックが猫仕様戦闘スーツに喜んで、猫の真似して踊りだす。
「俺の前を横切るニャよ。黒猫は不吉だニャン」
「ニャー! ニャニャニャニャニャ!」
「やめるニャン! 高速猫パンチはやめるニャン!」
「まあ、二人ともニャか良くじゃれ合って、本物の猫みたいニャン」
ブルーとブラックの喧嘩を、ピンクが微笑ましく見ている。猫の姿で喧嘩している姿はじゃれ合っているようにしか見えなかった。
「みんな落ち着いて……ニャン。とにかく団結してこの危機を乗り越えるんだ……ニャン」
(素にニャったら余計に恥ずかしいぞ、ハヤテ。こういう時は流れに乗らニャいと)
メンバー達は組織の存亡を賭けて、猫になり切っていた。
猫化したメンバー達は様々なメディアに活動を広げた。雑誌やテレビの取材、バラエティー番組への出演。始球式等、スポーツイベントへのゲスト参加。あれほどグラビア撮影を嫌がっていたピンクが、猫仕様水着でブラックと一緒に撮影するなど、みんな懸命に頑張っていた。ブルーは全員で参加するイベント以外では、殆ど出番が無かったのだが。
猫化活動を続けていたある日。ブルー達は全員猫仕様戦闘スーツを着て新聞各社の合同記者会見を開いていた。集まった記者たちを前に、レッドを中心にしてメンバー全員真面目な顔をして横並びで座っている。資金難が解消して正気に戻った後にこの記者会見の映像見せられたら、みんな穴が有ったら入りたくなるぐらいの黒歴史になるだろう。
「それでは、レッドさんにお聞きします。なぜ最近猫化を始めたんでしょうか?」
司会者から指名された新聞記者が、レッドに質問する。
「あーそれはですね、ニャン。これからのヒーローはみなさんに親しみを感じてもらう必要もあると考えてのことです、ニャン」
相変わらず一人だけ猫化に乗り切れないレッド。
「ブルーさんに質問です。ブルーさんは猫化に反対されているとの噂がありますが、本当でしょうか?」
次の記者はブルーを指名してきた。
「そうニャんです。みニャさんも変だニャと感じていニャいですか? 世間はみんな、猫、猫、猫、猫も杓子も猫ですニャン。もっと豆柴とかキノコの山とかをですニャ……」
と、その時、テーブルの上に置いてあったパトライトが警報音を鳴り響かせて回りだす。
「みんな出撃だ……ニャン!」
「ニャン!」
怪人が現れたようだ。メンバー達は直ちに出撃する。
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