貧乏冒険者はそれでも夢を追いかけたい~腕もお金も無いけれど、僕は『腕』となる奴隷を買って今日もダンジョンに潜ります~

夏歌 沙流

第1話 貧乏冒険者と日常

――――ピギュッ!

「よっし、スライム3匹目!」


 ダンジョン街、《オルルコ》。ダンジョンを中心として栄えているこの街は数多あまたの冒険者が集まってくる。


 目的はもちろんダンジョン!ダンジョンには色んなお宝が眠っており、一攫いっかく千金せんきんを夢見ている冒険者にはまさにドリームランドというわけだ。


「うわ、スライムの核傷ついちゃってるよ……もう少し狩らないと今日の晩ご飯はひもじくなりそう」


 まあ現状はこんな風に、ダンジョンの浅いところで弱い魔物相手に日銭を稼いでる僕のような冒険者がたくさん居るわけだけど。


 僕はナイフを布で拭い、スライムの粘液を落とす。うっ、ちょっと刃こぼれしちゃってるなぁ……この程度でぎに武器屋に持ち込むのもお金がかかるし、砥石を買うにしても砥石高いし。


「うー、うぅ~!ッはぁ、砥石買うか……」


 砥石の値段と安全を天秤に掛け、安全に傾いた僕は寂しくなるお財布事情をかんがみて今日は多めに狩ろうと気合いを入れ直す。 


 ダンジョンは、奥に進むにつれて様々な景色を冒険者に見せてくる……らしい。僕はこの普通の洞窟のような景色しか知らないけど、噂では5層からは石造りの迷路のような景色に変わるらしい。


 もっと奥に進めば海とか草原とかある……とダンジョン攻略の最前線の冒険者から聞いたときは、夜ベッドに寝ながらその景色を想像したものだ。


 ダンジョンの奥地にはどんなお宝が眠っているのだろう?強い剣とか、伝説の防具とか。そんな妄想をしながら、僕はダンジョンの第一層でスライムを狩り続けるのであった……




 ダンジョンから出ると、外はもう日が沈んでいた。やっば、冒険者ギルドもうすぐ閉まるじゃん!


 思っていたより狩りに集中していたせいか、体内時計が少し狂ってしまっていたらしい。夕方だと思っていたらもう夜だよ……


 僕は走ってギルドに向かう。ギルドに到着したとき、ギルドの受付さんが扉の営業中の札を裏返すところだった。


「セーフ!」

「アウトですよリドさん。本日の営業は終了しました」

「ええええぇ……」


 うん知ってた。扉の奥から見えるギルド内は既に消灯されてるし、札を裏返していた受付さんも既に私服姿だし。


 でも、でもぉ……!


「お願いリーシアさん!買い取りだけ、買い取りだけ!」

「はぁ……いーいリド君?」


 あ、リーシアさんが普段の言葉遣いになった。この時のリーシアさんはお説教モードなのだ。


「冒険者にとって、魔物の素材は鮮度が大事なのは分かるけど……私達ギルドもお仕事なの。ここでリド君だけ特別にって通しちゃうと、俺も私も!ってなっちゃうでしょ?」

「うっ……ぁぃ」

「明日の朝にもう一度来なさい、良いわねリド君?」


 そう言ってリーシアさんは何処かに行ってしまった。はぁ、仕方ない……そもそも僕がギルドの営業時間に間に合わなかったのが原因だしね。


「ああぁ……砥石買うのはまた今度かなぁ?」


 僕は財布を見ながら呟く。黒パンが5ギル、砥石が50ギル……スライムの核が1個10ギルで、5つ集めたから……えーと。


「うえぇ……砥石買うと今日の稼ぎがパーじゃん。黒パン買ったら赤字だよ」


 スライムの核が1個10ギルというのは傷が付いてない状態の値段だから、実際はもうちょい少ない。つまり、砥石を買った時点で赤字であるということが分かった。


「いやでも、完全にナイフ曲がっちゃったら買い直し……そうなれば銅のナイフが150ギルだからそれこそ破産だ」


 それだけは避けなければならない。少しの赤字を気にして大赤字を後から背負うよりは、お財布には痛いけど今お金を使うべきだね……


 僕は道具屋に向か……おうとして、道具屋も既に営業時間外であることに気がついて絶望する。


 僕の冒険者業は、明日お休みになることが確定した瞬間であった。




 朝。お腹が空いて目が覚めた僕は、のそっと起きる。顔からパラパラと藁が落ちる感覚と、馬がフスフスと僕の髪を嗅いでいる音を、眠くて目が開かない中で僕は感じていた。


 ……いつもの朝だ。


 馬小屋から出て、近くの川に向かう。この宿屋の女将さんは頼み込んだら格安で横に付いている馬小屋に寝かせて貰えるのでオススメだよ、これ言っちゃったらお金のない冒険者が一斉に馬小屋に群がってくるので秘密だけど。


 川の水を飲み、ついでに顔を洗う。川の水が最近冷たくなって、水をすくった手と洗った顔がヒリヒリする……もうすぐ冬かぁ。


 ふと自分の姿が気になって、僕は川に映る自身の顔を見る。黒に近い、暗いあおの髪が伸びて目にかかっており、そこから覗く緑の目は寝起きなのか覇気が無い。


 顔はろくに飯を食べてないから頬が痩けており、自身の貧乏ぶりを再確認する。腹一杯飯を食べるって贅沢、僕にはまだまだ先の話だよ……


 ポタポタと滴り落ちる水を持ってきた布で拭い……あ、これ昨日スライムの粘液拭った布じゃん。


「顔がヌルヌルになっちゃった……」


 こ、これが世に聞く保湿効果!?うん、違うね?はぁ、もう一回顔洗い直しだよ……ついでに布も洗ってやろう。下流の人ごめんね!


「オルルコじゃ珍しい新鮮な南国の果実、一個30ギルだよ!」

「そこのにーちゃん!串焼きはいかが?一本15ギルだぜ!」

「待ちな!そいつの串焼きで昨日腹痛を起こした冒険者がいたんだぜ、それより俺の串焼きはどうだい?一本20ギルだが、そいつより安全だぜ」

「あ、あれはあいつの腹が弱かっただけだ!ただ肉を焼いただけの串焼きを5ギルも高く売りつけるお前の方がぼったくりじゃねえか!」

「んだと!?」

「やんのか!?」


 いや、串焼き一本買うことすら僕には厳しいんですはい……朝市は今日も大通りの脇に露店が建ち並び、色んな商品を売っている。買う人も冒険者から主婦まで様々だ、掘り出し物やセール品を求めて人がごった返していた。


 オルルコの街名物、大通りの朝市。さっきのような果実や串焼きから、なんか見たことも無い置物まで様々な商品が売られている。


 まあ、冒険者が集まるからダンジョンに行く冒険者相手に消耗品を売ってたり、朝食の時間だから食べ物を売っていたりする方が今は多いかな?


 僕が狙っているのはもちろんセール品。パン屋さんが焼きたてのパンを売るのと同時に、昨日売れ残ったパンをカビる前に安くして売り払ってしまおうとしているセール品だ。


 さて、何があるかなぁ~?せめて一個5ギルの黒パンは安くて美味しいから残っていて欲しい……

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