なごみの語りべ

おむすび長者

 昔むかし。


 あるところにがおった。


「おむすびとして生まれてからには、大事に食べてくれる人に食べてもらいたい」


 希望いっぱい、夢いっぱい。


 仲間たちが次々稲刈りの昼飯で平らげられていくなか、


「俺はこんな急いで食われたくねえ!」


 ついに弁当箱から飛び出した。


「さあ、俺をしっかり味わってくれる人は誰だ?」


 ずんずん行けば、思わぬ敵も現れる。


「いやいや、おまえらじゃない!」


 キツネに追われ、スズメについばまれつつ、おむすびは運命の人に巡り合うため旅をします。


 けれど、なかなか食べてもらえません。


「梅干しも入っていないのに」


 と、笑われ、


「塩もかかってないじゃないか!」


 と、町に入れば追い払われ、


「せめて海苔が巻かれてなきゃ」


 海に行っても渋い顔。


 浜辺で『ざざぁ、ざざぁ』と波音を聞きながら、おむすびはため息。


「俺を食べてくれる人はいないのかなあ」


 波風浴びながら、夕暮れにおむすびはたそがれます。


 そのままこてりと疲れ果てて眠ってしまいました。


「くよくよしてても仕方ねえ。さあ、また行くぞ!」


 一晩眠れば元気いっぱい!


 生まれ変わった気分にもなり、おむすびはまた歩きだしました。


 けれどやっぱり、あっちでもこっちでも誰にも食べてもらえません。


「ああ、すっかりほこりまみれだなあ」


 もうキツネもスズメもそっぽを向く姿。


 おむすびしょんぼり。


「兄ちゃん、おむすびだ!」


「本当だ、これは美味しそうだなあ」


「うんうん」


 見上げれば、何ともみすぼらしい兄妹。


 泥だらけ、汗まみれ。


 貧しい我が家を助けようと、きっとどこぞの収穫を助けた帰りでしょう。


 わずかばかりの駄賃を握りしめるも、お腹はぐう。


「でも、ダメだぞ。これはきっとお地蔵さまへのお供えが転げてきたに違いない」


「はあ、なるほどなあ」


 兄に説かれれば、妹はそっと宝物を抱き上げるようにしておむすびをかたわらのお地蔵さまへ。


「お地蔵さま、今日も元気に働けました」


「妹や父ちゃん母ちゃんがすこやかでありますように」


 幼い二人は小さな手を合わせました。


「なんて、けなげで優しい二人なんだ!」


 おむすびはおいおいと声を上げて泣きだしました。


「あれあれ、おむすびどん何を泣きなさる」


「俺はおまえたちにこそ、俺を食べてもらいたい!」


「で、でも……」


「いいから、いいから! 食べられる俺がいいといってるんだから!!」


 おむすびに強く、強くすすめられ、ぐぅと鳴るお腹も食っちゃえとうるさく、ごくりと唾をのんだ兄妹は顔を見合わせました。


「じゃあ……」


 おむすびを二つに割ると、兄と妹は仲良く分けあって食べ始めました。


「おいしいな!」


「おいしいね!」


 潮風と涙で塩気たっぷりのおむすびは、懸命に野良仕事に働いて汗をかいた二人にはとてもおいしく感じられました。


 一口めはぺろり、元気が体中にみなぎります。


 二口めはぱくり。


 ぽん!


 なんとまあ、二人はきれいなべべに着替えているではありませんか。


 三口め、ごっくん。


 ぽぽん!!


 大きな家に、広い田畑。それはお地蔵さまからの贈り物。


 二人は長者になったのです。


 それでも兄は感謝を忘れず働いて、家をますます大きくしました。


 器量好しの娘に成長した妹は優しい人のもとに嫁いでいつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。


 あれとっぴきなしべ。


 おしまい。


(オリジナル)


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