第3話 耳が痒い貴方に膝枕で『耳かき』を。

 あれ、どうしたんですか坊ちゃま。そんなにお耳を触って。もしかして痒いんですか?


ああ、耳垢が取れないんですね。自分では見えないですからね。


え、綿棒ですか? うーん、エル綿棒はおススメしないです。あれって、自分でやると耳垢を奥の方に押し込んじゃうらしいですよ。


あっ、そうだ! それならエルがお耳掃除してさしあげます!


「恥ずかしいからいらない」ですか? 


でもでも、お耳痒いんですよね?


大丈夫です! エルはアンドロイドですから細かい作業とか、小さなものを探し出すのは得意ですよ。走査性電子顕微鏡並みです!え……あ、はい。まあそれは嘘ですけど。


ああ、待ってください坊ちゃま! お耳掃除が得意なのは本当なんです! だからエルに耳掃除させて下さい! 


「なんでそこまで言うのか」ですか?


だって、このまま坊ちゃまが自分でされたら中耳炎になって耳が聞こえなくなるどころか黴菌ばいきんが脳まで侵食して植物人間になるかもしれないですから。


嘘じゃないですよ。エルはアンドロイドなので嘘はつきません。

「ついさっき嘘ついたばかりだろ」って? まあそれはそれですよ。


とにかく、エルにお任せ頂ければ、適度な心地よさで耳垢をスッキリサッパリ取りつくしてみせますよ!


え、良いんですか!? やったー!


それじゃあ坊ちゃま。寝転がって、エルのお膝に頭を乗せてください。


え……「恥ずかしいから座ったままやって」?


なに言ってるですか。お家にはエルたち以外に誰も居ないんですから、恥ずかしがることなんてありませんよ。


ほらほら、観念してエルに任せてくださいな。


――がしっ! ――がばっ!


ふふふ、残念でしたね坊ちゃま。人間がアンドロイドのパワーに勝とうなんて20年遅かったですね。


あらあら、頬っぺたどころかお耳まで真っ赤になっちゃって……本当にもう、可愛いんですから……。

ああ、ごめんなさい坊ちゃま! 嘘です嘘! もう言いませんから、ちゃんと御掃除しますから!


……まったくもう。坊ちゃまってば、す~~ぐ怒りんぼさんになるんですから。


じゃ、右のお耳からいきますね~。

力抜いて下さ~い。


まずは耳殻じかく……お耳の外側から、さわさわしていきますね。


――コスコス……コスコス……。


むふふ~。気持ちいいですか?


お耳の周りは神経が集まってるから、耳かきでツボ押しされてるみたいになって、リラックスできるんですよ。ワンちゃんや猫ちゃんも、耳の後ろを撫でてあげると喜ぶんです。


それじゃあ、いい感じにお耳もほぐれてきたところでぇ……本番。イレちゃいますね……。


――カリカリ……カリカリ……。


あ、ここのお耳の壁に、おっきいのがくっついちゃってますね。


そ~っと、そ~っと……落とさないように……はい、取れました!


うわぁ、改めて見ると大っきいですね。どれだけお耳掃除してなかったんですか?


え、1ヶ月くらいですか?


汗もかいてたでしょうに、よく我慢してましたね。


坊っちゃまって、変なところ不精ですからね。これからはエルが定期的にお掃除してあげないとです。


はいはい、続きですね。分かってますよ。


――カリカリ……カリカリ……。


ところで坊ちゃま。


坊ちゃまは彼女さんとか居るんですか?


あ、ちょっと坊っちゃま! 急に動かないで下さい! 危ないですよ! 鼓膜破れちゃいますよ!


……まったくもう! 今この状況において、エルが坊っちゃまの生殺与奪権を握ってること忘れないでくださいね?


え? アンドロイドなのに人間に危害を加えるのはダメだろうって……フフン! そんなのエルには関係ありません! 愛の前にはどんな障害も些細な問題ですから!


――カリカリ……カリカリ……。


話を戻しますけど、恋人さんは居るんですか?


え、いない?


むふふ~~、そうでしょうそうでしょう。エルみたいに完璧可愛いアンドロイドが傍にいたら、彼女なんて必要ないですもんね。というかエルが彼女ですもんね。


――カリカリ……カリカリ……。


そんなに否定しなくても大丈夫ですよ。エルはちゃんと全部理解してますから。本当に坊ちゃまは照れ屋さんですね。


――カリカリ……カリカリ……。


……うん、綺麗になりました。


それじゃあ、仕上げに梵天で……あ、この耳かきの後ろに着いてる白いフワフワのことです。


これでお耳の中をコショコショされると人間は気持ちが良いんですよね? エルは人間じゃないから、そういう感覚は分からないですけど。


――コソコソ……コソコソ……。


はい、じゃあ次は反対のお耳です。お顔の向き、変えてもらっていいですか?


あれ、坊っちゃまどうして起きあがろうとするんですか? そのまま反対を……エルの方を向けば良いじゃないですか。


「お前の方を向くの恥ずかしい」って、なに顔赤くして言ってるんですか。昔はいっつもエルの膝の上で抱っこしてたのに。


ほら、早くはやくです!


はい、良い子ですね。

なんやかんや言いながら坊っちゃまもエルのこと大好きなんですから……ああ、もう! いちいち起きあがろうとしないで下さい!


まったく……じゃあ改めて、こっちのお耳掃除も始めまちゃいますね。


まずは耳の汚れ具合をチェックですね。


失礼しま〜す。


うーん、こっちのお耳もだいぶ耳垢が溜まってますね。それに坊っちゃま、指や綿棒で耳の中を掻くから、耳垢が奥に押し込まれたり、耳壁にこびりついてますよ。


それじゃあ、さっきと同じように、お耳の外側からちょっとずつ触っていきますからね。


――コスコス……コスコス……。


どうですか? 気持ちいいですか? 坊っちゃま、お目目がトロンとしてますよ。


眠くなったら、いつでも寝ていいですからね。


それじゃあ、リラックスもできたところで、中の方のお掃除をしていきますね。動かないでくださ〜い。


――カリカリ……カリカリ……。


痛かったら我慢なんてしないで、ちゃんと言ってくださいね?


――カリカリ……カリカリ……。


はい、また大物が取れましたよ、でもまだまだ奥にお宝が眠ってますね〜。


――カリカリ……カリカリ……。


おおっ、これはなかなかですね。


――カリカリ……カリカリ……。


う~ん、だいぶ綺麗になりましたね。


――カリカリ……カリカリ……。


うん、こんなところですかね。


それじゃあこっちのお耳も、梵天のフワフワで気持ちよく仕上げちゃいますね。


――コソコソ……コソコソ……。


ふぅ~~~……。


うふふ。息を吹きかけちゃいました。くすぐったかったですか坊ちゃま……って、熟睡してますね。どおりでさっきから返事がないと思いました。


どうぞこのまま、エルのお膝でゆっくりお休みになってください。


エルが坊ちゃまのお世話を出来るのも、きっと今だけでしょうから。


エルはアンドロイドです。結婚は出来ないですし子供も産めません。


だからいつかは坊ちゃまも、素敵なお嫁さんを見つけて……エルより大切で大好きなその人に、お耳掃除してもらうんですかね……。




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 こんにちは。火野陽登ヒノハルと申します。

 此度は拙作をご覧いただき、誠に誠にありがとうございます。


 この御話に登場するメイド型アンドロイド、エルグランディアと同様に可愛いアンドロイドの女の子が登場するお話がこちらです。よろしければ御一読ください。


【アンドロイドの薬屋さん】

https://kakuyomu.jp/works/16817330658171237475

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