幼い頃から一緒に暮らしている貴方のことが大大大好きなメイド型アンドロイドによる癒しの囁き

火野陽晴《ヒノハル》

第1話 寝ている貴方に『爪切り』を。

 坊ちゃま~、晩御飯できましたよ~?


あれあれ? お部屋に居らっしゃるはずですけど、返事がありませんね。


坊ちゃま~! 坊ちゃまが愛して止まないこのエルグランディアが、今日も愛情をた~っぷり込めた、温ったか~い夕食を御用意しましたよ~。


……おかしいですね。いつもなら呼べばリビングに来るのに、今日はお部屋から出てきませんね。


動画でも観てるんでしょうか? メイドもののえっちな動画とか。


――コン、コン……。


坊ちゃま。晩御飯できましたよ、坊ちゃま。


――コン、コン……。


むぅ……返事がありませんね。本当にえっちな動画を観てるんでしょうか。


――ガチャ……。


お忙しいところ失礼しま~す……って、なんだ寝てただけですか。

まったくもう、人騒がせならぬアンドロイド騒がせな坊ちゃまですねっ。


それにしても、気持ちよさそうな顔でいびきなんかいちゃって。そ~んな無防備な状態で寝てたら、エルに悪戯されちゃいますよ?


ほーら、頬っぺたをツン、ツン……。


……ふふっ。寝顔だけは何歳いつまでたっても可愛いお子ちゃまですね。小さかった頃は一人で寝るのが怖くて、毎晩エルに添い寝をお願いしてたのに。


最近はエルが抱きついたり腕くんだりすると、怖い顔で振りほどこうとしますからね。御年頃っていうやつですかね。


それだけ坊ちゃまが大人になったんでしょうけど、エルはちょっと寂しいです。

まあ、エルはアンドロイドなのでこの感情はプログラムなんでしょうけど。

 

ああもう、坊ちゃま。お布団はちゃんと肩までかけて寝ないと。風邪ひいちゃうですよ。

腕もお布団の外に放り出して……って坊ちゃま、また爪が伸びてる!


子供の頃からエルが言わないと、全然切ろうとしないんですから。


仕方ないですね。え~っと、爪切は……っと。


――ガチャガチャ……。


どこかなどこかな~……あ、ありました! 


ではでは、タオルを腕の下に敷いて……坊ちゃま、お手手を失礼しますね。


ふふ。こうやって坊ちゃまの手を握るのも久しぶりですね。


むかしエルがおウチに来たときは、手なんてこーんなに小っちゃくてお饅頭みたいに柔らかかったのに、今はすっかり男の子らしい、硬くて大きな手になって……今はもう、エルの手より大きいですね。


あ、いけない。つい当時の圧縮ファイルを解凍してました。

爪のお手入れしなきゃでしたね。


本当にもう、こんな不衛生に爪を伸ばしてたら女の子にモテないですよ。モテたら困りますけど。


それじゃあ、まずは右手から……。 


――パチン、パチン、パチン……。


爪が割れないように端っこから少しずつ……。


――パチン、パチン、パチン……。


深爪はしないように、ちょっとだけ白い部分を残して……。


――パチン、パチン、パチン。


うん、いい感じですねっ。


それじゃあ今度は左手を……って、左側には壁がありますね。


う~ん、どうやってお手入れしましょう。坊ちゃまを起こすわけにはいきませんし……。


仕方ありません。失礼を承知で、坊ちゃまの足にまたがっちゃいましょう。


よいしょ……っと。


ふふふ。なんでしょうこの光景。こういうのを人間は『背徳感』とか『征服感』て呼ぶんですかね。


はい、じゃあ左手も失礼しますね~。


――パチン、パチン、パチン。


坊ちゃま、左手の方が右手よりちょっとだけ大きいんですね。利き手は右なのに。


――パチン、パチン、パチン。


指の付け根にちょこっとだけ生えてる産毛、なんだか可愛いですね。


――パチン、パチン、パチン。


はい、左手も綺麗になりましたね。

あとはヤスリの部分で、爪を丸く整えましょう。


――ショリショリ……ショリショリ……ショリショリ……。


ふぅ~~~……。


あ、いま指がピクッと動きましたね。くすぐったかったんでしょうか。


仕上げは濡らしたガーゼを使って、爪の表面と甘皮の周りを優しく、優しく磨いて……っと。


うん、ピカピカになりました!


それにしても、全然起きる気配が無いですね。余程お疲れだったんでしょうか。


そういえば最近、とっても忙しそうにされてましたね。夜も遅くまで勉強してたみたいですし。


疲労回復に効く足裏マッサージでもしてさしあげましょうか……って、足の爪も伸びてる!


そういえば坊ちゃまの靴下、つま先に穴が空いてましたね。


これは切っておかないとですね。足の爪が伸びてると爪が剥がれて大怪我になるかもしれませんし。


でも寝てる状態で足の爪は切りにくいですね。このまままたがった状態で切っちゃいましょう。


切った爪が零れても良いように、足の下にもタオルを敷いてっと。


坊ちゃま、いま寝返りはうたないで下さいね~……って、聞こえてないですよね。


それじゃあ、まずは小指から……。


――パチン、パチン、パチン……。


ふふふ。坊ちゃまの小指、ちっちゃくて可愛いです。エルがお家に来た頃の坊ちゃまみたいです。


――パチン、パチン、パチン……。


さあ、いよいよ親指さんですよ。坊ちゃまの靴下、親指のところばかり空いてましたからね。入念にお手入れしないとです。


――パチン、パチン、パチン……。


ふうっ! やっぱり他の指より爪が大きくて硬いですね。深爪しないように気を付けないと。


――パチン、パチン、パチン……。


よ~~し! なんとか終わりましたね! あとは手と同じようにヤスリで形を整えて、っと。


――ショリ……ショリ……ショリショリ……。


坊ちゃま、足の指にも薄っすら毛が生えてるんですね。子供の頃は女の子みたいに可愛らしかったのに、すっかり一人前の男の人なんですね。


はい、じゃあ次は反対側の足ですね。

失礼しま~す。


――パチン、パチン、パチン……。


こっちの方が、少しだけ爪が柔らかい感じですね。爪の形も左右でちょっとだけ違ってますし、人間の体って不思議ですね。


――パチン、パチン、パチン……。


うん、こっちも良い感じに切れました!

あとはヤスリで形を整えて……。


――ショリ……ショリ……ショリ……。


最後に足の爪も濡れたガーゼで優しく拭きあげて……うん、すっかり綺麗になりましたね!


坊ちゃま、お疲れ様でした……相変わらず爆睡中ですね。


今日は、もうそのままお休みください坊ちゃま。


久しぶりに坊ちゃまと沢山触れ合えて、エルは嬉しかったですよ。


また爪切り、させてくださいね。




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 こんにちは。火野陽登ヒノハルと申します。

 此度は拙作をご覧いただき、誠に誠にありがとうございます。


 この御話に登場するメイド型アンドロイド、エルグランディアと同様に可愛いアンドロイドの女の子が登場するお話がこちらです。

 宜しければ御一読ください。


【アンドロイドの薬屋さん】

https://kakuyomu.jp/works/16817330658171237475

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