第20話 本の外
朝食と同じメニューの昼食を食べた後、ニンフのステータスにまつわる講義が再開した。
色々細かく質問を繰り返した結果、光の板のステータスの周りにはこんな書き込みがされていた。
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【ステータス】 →いぇい♪
氏名:ギルガメス・オルティア ←ギルタソ(はぁと)
生年月日:王国暦1003年11月30日生まれ ←若いよ、いいよー、おねーさんは待ってるよー
属性:聖 暗黒 ←右腕が暗黒属性、他は聖属性だねー
レベル:1 →ボクがこれから大事に色々仕込みながら育ててあげるねー
【基本ステータス】
LP〈生命力〉:1
HP〈体力〉:12
MP〈精神力〉:51
物理攻撃力:1
物理守備力:6
属性攻撃力:54
属性守備力:102
力:1
知性:563 →ちょっと数値が異常だね、バグなのかなー?
命中:0
会心:0
回避:0
素早さ:0 →命中0、会心0は呪いのアビリティの影響だね。魔法のセンスはあるみたいだよー
【固有アビリティ:所持数3】
→アビリティは条件を達成すれば上位下位互換に変化したり、解除されることもあるから、諦めずにがんばろー
①戦闘適性ゼロ:物理攻撃、魔法攻撃、攻撃に関与する魔法攻撃(補助魔法、状態異常攻撃魔法・状態異常回復魔法)の命中0%
→まずはこれをどうにかしないとねー
②
→半減しちゃうなら人の三倍多く倒せばいいよねー
③
→詳しく教えてあげたいけど暗黒魔法ってボク使ったことないから知らないんだよね。ちょっと友達に聞いておくねー
【通常アビリティ】
①魔法使用可能 黒魔法:火雷風 白魔法:回復
→魔法は覚えて行けば、これからもっと色々使えるようになるよ。でも、聖属性の左腕で黒魔法が発動できているのが気になるねー。これはまた別の機会に調べよー
②かばう:瀕死状態やHPの低い仲間の身を守る。その際、一時的にステータスが上昇
→よく見るアビリティだね。これは取得条件をクリアしやすいから付きやすいアビリティだよー
【備考:運動発達障害(重度)】
→これはこれから何とかしていこー。通常アビリティが付けばある程度改善できるかもしれないよ。あとは暗黒属性の影響下でどうなるかも気になるねー
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ニンフが書き込んでくれたことで、だいぶ文字文字しくはなったけど、問題点は整理できつつあった。やっぱり所々よくわからない記述はあったけど。
文字にしたことで、改めて浮き彫りとなった問題点は、やはり呪いのアビリティ〈戦闘適性ゼロ〉であった。
このアビリティの悪影響が強すぎて、レベルを上げようと思っても現状不可能と言ってよく、常に成長を縛られている状態に思えた。
ただ、ニンフによれば、アビリティは固有・通常問わず、条件をクリアすることで変化するらしい。
解除条件をクリアすれば、アビリティは外れるので、呪いのアビリティが外れることもあるし、逆に〈祝福のアビリティ〉と言うプラス面の多いアビリティが外れてしまうこともある。
厄介なのは固有アビリティの取得・解除条件は調べようがないこと。それは固有アビリティがユニークで、似たようなものはあれど、全く同じものは二つと存在しない理由によるとのこと。
ただ、ニンフはこうも言った。『アビリティの解除なんて意外と簡単だよ。大体はアビリティの持つ性質と逆の行動を取り続ければ外れるよー』と。
だとすれば、〈戦闘適性ゼロ〉の解除条件は、攻撃を何回当てるとか、攻撃でモンスターを何匹倒したとかであると推測できる。
実際は、それがどれくらいの強さのモンスターによっても難易度が全く変わるし、倒すのが百匹なのか千匹なのか、あるいはそれ以上なのか。
傾向が分かっただけでもありがたいが、結局はやってみなければわからないし、それが100%正しいという保証もないため、先が険しいということだけは明らかだった。
ずっと考え続けていたので、少々休憩。ニンフは、おやつに近くの森で採れた木の実を出してくれた。悩むギルを見てニンフが言う。
「ギルたん、焦るのはわかるけど、しっかり対策しないとキミのレベルだとここを出た途端にすぐに死んじゃうよー」
「そんなことわかってるよ……。だから、今もこうやってボクは懸命に考えてるんじゃないか」
ポリポリと木の実を口に詰めながらギル。
「ねぇギル。キミはちょっと行動力に波があるよね。時には考える前にがむしゃらにやってみることもボクは必要だと思うな」とクロベエ。
「ボクもそこはクロたんに一票かなー」とニンフ。
(ん? あれ? 一人多くない?)
「どうしたのギル?」と、足元のクロベエがギルを見上げて言う。
(おまえかー!)と、ギルは心の中で思わずツッコむ。
「え? っていうか、なんでクロベエが普通に喋ってんの? だってキミ、猫じゃん」
「ボクは確かに猫だけど、喋れるみたいだね、この中だと」
(この中?)ギルはキョロキョロと周りを見渡す。その様子を見ていたニンフが裸エプロンから、いつもの水の羽衣にパッと衣装を変えて補足する。
「あれ、言ってなかったかな。スライムの谷にはボクが全域に結界を張ってて、その中だと知能の高い動物となら会話ができるんだよー。中にはそのまま外に出ても喋れる動物もいるみたいだから、クロたんにはぜひそうなってほしいよねー」
なんだその設定は。初めて聞いたけど。
「へぇ、結界って便利なんだね。でも、クロベエと話せるのはかなりありがたいな。伝えなきゃいけないことが沢山あるし……」
「あー、えっと、その前にボクから一つ提案だよー」
重い空気を察したのか、ニンフが口をはさむ。
「どうしたの、ニンフ」とギル。
「あのねー、ボクちょっと思ったんだけど、わかりづらいよねー」
ニンフは両腕を胸の前で組んで、眉間にしわを寄せて難しそうな表情をする。精霊というのはオーバーリアクションなのだろうか。
「わかりづらいって何が?」
ギルが言うと、ニンフは白い歯を見せて言った。
「一人称だよ。ボクはボク、クロたんもボク、で、ギルたんもボクだとわかりづらいよねー」
クロベエに目をやると首を縦にぶんぶんと振っている。そんなにわかりづらいかな、ボクはそうでもないけど。
「だから、ギルたんはこの機会に一人称を俺にしてほしいなー」
「はい?」
「だから、ギルたんはこれから自分のことを俺って言ってね。ボクは男の人には『俺』って言ってほしいんだよー」
また訳のわからないことを。
「嫌だよボク。だって、俺なんて悪い人みたいな言葉遣いじゃないか」
ギルが言うと、ニンフは「チチチ」と言いながら人差し指を顔の前で動かした。
「わかってないねー。男の人は大人になると、みんな俺って言うんだよ。だから、ボクって言うのは子供だけなんだよー」
(そうだっけ? どの本にもそんなことは書いていなかった気がするけど)と、自分の記憶と照らし合わせて答えを導きだそうとする。そんなギルを見てニンフは追撃。
「それにね、普段から俺って言ってる方が攻撃力が上がりやすくなるんだよ。それは今のキミにとって、すごく大事なことだからねー」
「え? そんなことどの本にも書いてな――」とギルが言い終わる前に、ニンフは大きな丸い目を吊り上げた。
「一旦、本は忘れなさーい。それがキミの悪いところだよ。世の中には本には書かれていないことが沢山あって、それは自分で行動して、自分の目で見て、耳で聞いて、手で触ってみないとわからないことばかりなんだよー。キミが生きている世界は本の中じゃない、本の外なんだからー」
ニンフの言葉がギルの胸に突き刺さる。それは、ギルの中で何かが変わるきっかけだったのかもしれない。
確かに今までは本の知識に頼りすぎていた。ギルの中に反論の余地は残されていなかった。
「わかった。ボクはこれからは自分のことを俺って言うし、お、お、俺は考える前にまずは行動するよ」
ギルの言葉に満足気な笑顔を浮かべるニンフ。
「キャーいいわー。じゃあ次はボクのことをお前って言ってみてー」
「……いや、それだけは本当にごめんなさい」
ギルにとって、本で得た知識はずっと自分の身を助けてきた。だが、本を読んで強くなるわけじゃない。それがはっきりと自分の中で整理できた瞬間でもあったのだ。
強くなるって難しいな。
思いとは裏腹に、ギルは充実の表情を浮かべていた。
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