第8話【Side】逃走
「おい、これは俺たちAランク冒険者が引き受ける。ザコはもっと安全な任務をやっていれば良い!」
「そんな! ひどいです!」
「うるさい。それにすでに依頼書は俺が持っている。つまりこれは俺たちの任務になるのだよ」
ハルトは他の冒険者が引き受けようとしていた依頼を横取りしていた。
公式ギルドルールとして、ギルド関係者は基本的に冒険者同士の争い事には関与しない。
キリがないほど冒険者同士のトラブルが頻発しているからである。
とはいえ、受付嬢はため息を吐きながら呆れているし、ギルドマスターのロックは遠くから哀れな目でハルトたちを見ていた。
「ふん、所詮俺たちAランクの実力には逆らえないんだから大人しく従ってれば良いんだよ」
「あら、ジャイアントモンキーの討伐なんて楽勝よね」
「俺なら片手でワンパンで倒してやれるぜ!」
ハルトが嫌味を言った後、続けてミネスとグルドも自信満々に武勇伝を自慢をしていた。
だが、それはレオンのエリクサーがあったからこそ倒せたというだけであったことを彼らは知らなかった。
「おい、これを引き受ける。今度はミスはしねーから安心しろ」
「良いんですか? 前回のウッドゴーレム討伐を何度も失敗していましたよね。今回失敗したら五回連続ですよ! 五回連続で依頼を破棄または達成できなかった場合、ギルドカードは没収されますけれど」
受付嬢は彼らの本当の実力を知っていたからこそ確認をとる必要があった。
どんなにダメな冒険者であっても対等にしなければならない。
危険だと判断すればこのように聞く場合もある。
「あん? 俺たちAランクなんだぜ? こんなザコモンスターなんか本来ソロで行ったって良いくらいなんだからな!」
「そうよ! 前回のウッドゴーレムのときはたまたまポーションを買い忘れていただけ。今回は別の街でまともな道具屋から買ったポーションがあるんだから大丈夫よ」
「ま、ジャイアントモンキーなら前に討伐経験あるし問題ないっすよ!」
受付嬢は言われたとおりに依頼を承認した。
いくら忠告をしたとしても、最終決断は冒険者なのだ。
ハルトたちが自信満々にギルドを出て行った後、直ぐに受付嬢とロックが横取りされた冒険者の元へ駆けて行った。
「大丈夫ですか?」
「はい……でも悔しくて……」
「心配すんな。お前らBランクのパーティーだったよな? あいつらよりもお前たちの方が強い」
冒険者パーティーは不思議そうな顔をしてギルドマスターのロックに顔を向けている。
「マスター……どうしてですか? あいつらはAランクなんですよ? 悔しいけど俺たちじゃ……」
「今まではな……。だが、肝心な奴をあいつらが解雇したから今じゃそんな力はねーんだ。ま、結果はもうすぐわかると思うぞ」
「代わりにこの依頼やってみますか? これもランクBですけれど」
「「「ありがとうございます!!」」」
冒険者たちは受付嬢とロックの優しさを感じて嬉しそうな顔になったのだった。
♢
「はぁ!? なんでジャイアントモンキー程度にこんなに苦戦を……ポーションくれ!」
「もうないわよ!」
「そんな!!」
「ハルト! 向こうから更に一体出てきやがった! 撤退した方が……」
「バカいうな! 今回依頼を失敗したらギルドカードを没収されるんだぞ!」
「しかし……この状況じゃ……」
「くそう……なんでこんなザコモンスター相手に……!」
ハルトは負傷しながらもジャイアントモンキーに立ち向かって行った。
しかし、後方支援のミネスは魔力が枯渇し、グルドもグロッキー状態になってしまう。
容赦無くジャイアントモンキーのタックルがハルトを突き飛ばした。
「「ハルト!!」」
既にハルトの意識はない。
今の彼らには無理もなかった。
レオンがいない状態でエリクサーを持っていない状態では本来はCランクのモンスター討伐が精一杯のパーティーだったのだから。
「グルド……こうなったら最後の手段よ。魔道具の煙玉を使って撤退しましょう!」
「しかし……ハルトは意地でも倒せと言ってたが……」
「バカね! ジャイアントモンキーが変異種と言えるような力を手に入れているのよ! これは明らかにギルド側のミスよ! 猛抗議して今回の件もチャラよ!」
「う……ウス」
ミネスもグルドも悔しそうな顔をしながら撤退を決断したのだった。
ハルトを連れ、高級な魔道具を使ってその場から離脱した。
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