自習室からはじまる恋愛物語~ナンパを助けたら美少女からお礼をもらうことになった~

不管稜太

第1話 怖くねぇんだよ

 夏真っ盛りな暑い日の夜。


 小高荘志おだかそうしは、図書館の自習室を後にした。

 時刻は十時を回り、人はまばらだった。


「勉強つまんねぇなぁー」

 荘志はそう呟く。


 小高荘志、高校三年生。

 部活に精進していた荘志は、つい二週間ほど前に部活を引退してから受験勉強をスタートした。

 そのため膨大な勉強に追われている。


 ――もういっそ勉強なんかやめて働こうかな……。


 荘志はそんなことすら考えていた。


「――なあ、いいじゃん。おいでよ」


 ふと脇道に目をやると、女子高生がナンパされていた。

 髪を金色に染め、耳にピアスなんかをした怖めの大学生が、制服を着た女子高生に詰め寄る。


「結構です」


 女子高生は逃げようとする。

 が、男は女性の進路を手で塞ぎ、女性を壁に追いつめる。


 これは……、少々危険かもしれない。というか、ここまで来ると犯罪だ。

 女子高生は完全に怯えてしまっている。


 というかあの子、どこかで見たことがある気がするな……あ、いつも自習室にいる子だ。


「おいで」

 男が無理やり女子高生の手を掴もうとした。


 ――その時、


「――おい」


 荘志はドスの効いた声で、男と女子高生の間に割って入る。


「あ? なんだテメェ!?」

 男は荘志の真ん前まで顔と身体を近づけてくる。

 顔はナンパの邪魔をされた怒りが滲んでいた。


 ――。


「……怖くねぇんだよ」


 高身長の荘志は、男を見下ろすように睨む。


「はぁ!?」

 男が声高に言う。

 だが、それに対しても荘志は全く怯える素振りを見せない。


 荘志はTシャツの腕を捲る。

 そこからは、野球部で鍛え上げられた屈強な筋肉が露わになる。


「――怖くねぇっつってんだよ。てめぇに負ける気がしねぇ」


 荘志は威圧的な迫力のある声で、言い放つ。


「ひっ……」


 荘志の筋肉と、圧のある声に、男は怯えた声を漏らす。


 そして、

「……す、すいませんでしたっ!」

 今までの威勢の欠片も見せず、男は弱腰になって走って逃げていった。


「……帰るか」

 荘志は大儀そうに、そうこぼした。

 所詮あんなのはイキった大学生だ。見た目はチャラチャラしていても、本当に強いわけがない。


 荘志はそのまま帰ろうとすると、


「あ、あの!」


 と、声が掛けられる。

「助けていただき、ありがとうございます……!」

 荘志の助けた女子高生は、礼儀正しくお辞儀をする。長い髪も一緒に下へ垂れる。


「お、おう。気にしないで」

「いえ! 助けていただかなかったら、きっと無理やり連れて行かれてました。本当にありがとうございます」

「それなら、助けられてよかったかな」

 女子高生はまだ少し怯えている顔ながら、丁寧にお礼を言う。


「あの、いつも自習室にいる人だよね……?」

「あ、うん。そっちもいつもいるよな」

「やっぱりそうだよね!」

 女子高生はあどけない笑みを浮かべる。


 ――こんな女子と話すの、いつぶりだろう。

 中、高と野球漬けだった荘志は女性経験が皆無で、これだけの会話でも実はかなり緊張していた。


「じ、じゃあ、俺帰るから。じゃあな」

 これ以上話しても間が持てない。荘志はこの場から離れようとすると、

「あ、待って!」

 女子高生が呼び止める。


「あの、助けてもらったお礼がしたいです!」


「いいよいいよ。大したことしてないんだし……」

「いや、大したことをしてもらっちゃったよ! せめて連絡先だけでも教えて!」

「そんぐらいならいいけど……」


 荘志は女子高生の押しに負けて、連絡先を交換した。


白木美琴しらきみことです! お礼は後日させてもらうから!」




 これが、荘志と美琴の出会いだった。






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