燕と白鷺。
汐海有真(白木犀)
第1話 何で急にポジティブになったの!?
視界に広がるのは、雄大な草原と真っ青な空。【
「えいやーっ!」
ツバメはそう言いながら、桃色スライムに向けて剣を振るいました。ポニーテールに纏められた藍色の髪が、はさりと揺れ動きます。桃色スライムはぽよよんと逃げて、ツバメから遠ざかっていきます。
「ああ、待ってよう桃色スライムさん! 私たちの今日の夕ご飯がかかってるんだよ、逃げないでー!」
ツバメと桃色スライムの追いかけっこが始まります。何というか非常に……平和です。
「と、というかシラサギ、のんびり水筒のお茶を啜っていないで手伝ってほしいんだけれど! 桃色スライムさんを十匹討伐するのが、今日の目的なんだから!」
「それは百も承知ですけれど……わたしの魔法がよわよわなの、ツバメはよく知っているでしょう?」
「それは百も承知だけれど……で、でも、二人で手を取り合って戦えば、きっと桃色スライムさんくらいやっつけられるよ! 一緒に頑張ろう、シラサギ!」
ツバメは両手をばたばたさせながら、そうやって熱弁します。わたしは下ろしていた腰を上げて、ゆっくりと伸びをしました。
「さて……帰りましょうか」
「か、帰らないよ! 話聞いてたかな、私たちは桃色スライムさんをやっつけなきゃいけないんだって!」
「冗談ですよ、冗談。取り敢えず、逃げた桃色スライムを追いかけましょうか。あの辺りにいそうですね」
「ほんとだ、流石シラサギ、目がいいね! よーし、倒すぞー!」
ツバメは駆け足で、桃色スライムの方へと向かいます。わたしは彼女の揺れる藍色の髪を見ながら、遠ざかっていく背中をゆっくりと追います。
ようやくわたしたちは、桃色スライムの元に辿り着きました。ぽよんぽよんと上下運動を繰り返している桃色スライムに、ツバメはむむむと表情を硬くします。
「ねえ、シラサギ。この無駄に跳ねてる桃色スライムさん、もしかして私たちのことを煽ってるんじゃないかな?」
「もしかしなくてもそうでしょうね。桃色スライムごときに見下されるという経験は、中々できないかもしれません。ラッキーですよ、ツバメ!」
「何で急にポジティブになったの!? しかも方向性がおかしいポジティブ!」
「ほらツバメ、ツッコミを入れてる暇があるなら桃色スライムに剣を入れてください。ファイトファイト!」
「し、シラサギも手伝ってよう!」
「わたしは今、桃色スライムの色彩が個体によって濃度が異なるかどうかを考察するのに忙しいんですよ」
「絶対今やらなくてもいいよね、それ! しかもそれを行ったところで、何か得るものはあるのかな!?」
「いいですか、ツバメ? 物事はそこにどれだけ意味がないように見えても、何かしら意味があるものなんです。だからどんな努力も、決して無駄にはならないんですよ!」
「た、確かに! 確かにそうだ! 確かにそうなんだけれど、だからと言って桃色スライムさんの個体の色彩差を考察することは多分やらなくていいよ!」
「というかツバメ、そうこうしているうちに再び桃色スライムが遠くに行ってしまいましたが、いいんですか?」
「おおっと、全くよくないね! 追いかけなくては!」
こうしてわたしたちは、桃色スライムとの追いかけっこに明け暮れるのでした。
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