地球レポート

スミノフ

第1話

「ちょっと!なんとか言いなさいよ!」

局部超銀河団 おとめ座銀河団 局部銀河群 銀河系

「ねぇ、聞いてるの?」

オリオン腕 太陽系

「ねえってば!!」バシャァッ

第3惑星 地球

惑星の7割が水で覆われた青い星だ。そして今僕が顔面からおもいっきり被ったのも、水である。


「聞いてんのかって聞いてんの!!!!」

「ごめんって…」

現代の地球、しかも日本でこんなベタな体験をするとは思わなかった。僕は地球についてから、地球での振る舞いの見本にしようとこの星の人間が作った様々な映像作品をみてきたけど、実際の世界と映像の世界は全然違ってほとんど参考にならなかった。でも、このシーンは何度かみたことがある。


「いつからあの人と連絡とってるの?」

「違うよ、ただ知り合いってだけでそういう」「そんなわけないでしょ!!!」


こいつはユミコ。漢字で由美子。僕の地球で最初に出会った人で、最初の彼女だ。僕は地球人についてよく知るため、特定の人と仲良くして、観察したりする。その際に恋人という関係は都合が良い。愛は理由にしやすい。


ユミコはイスから立って大声で捲し立てた。

「あたしたち付き合ってるんだよね?だったら、他の女の人とかと連絡とかとらないもんだし…なんか、なんていうか、こう……もっとちゃんとしてよ!!!!!」


ユミコ以外の地球人と出会ってから分かったことだが、ユミコは人間にしては頭が弱い。頭が弱い人間なんて、ブサイクな子猫で飛べない鳥でる。

…今のは実際に飛べない鳥である鶏に失礼だったかもしれない。

「落ち着いて……みんな見てるから…」


僕は最近みたドラマで男がしていたように、ちょっと慌てた感じでユミコをなだめる。さっきまでカフェはガヤガヤとした空気に覆われていたのに、ユミコが大声を出した途端、空間にぽっかり穴が空いたように静かになった。


ユミコが座った。


その穴が埋められていくように、再び店内はガヤガヤとした空気に包まれていった。


「悪かったよ、でもさ、勝手に携帯見た挙げ句浮気だって決めつけるのはひどくない?」


「浮気以外になにがあんのよ!」

地球人というのは本当にうるさい。し、よく喋る。その点猫は良い。僕の行動にいちいち疑問を投げ掛けてこないし、ましてや浮気を疑われることなんかもない。だって喋らないから。喋ったら、多分、嫌いになる。

「またダンマリ決め込むわけ!?」

だけど僕は人間が嫌いなわけではない。僕は地球に来る前、地球に来るのをかなり楽しみにしていた。地球にいったことがある仲間からいろいろな話を聞いていたからである。地球への評価は様々だった。もう二度と行きたくないという奴もいたし、これまでの行った星のなかで一番おもしろいという奴もいた。中には、そのまま住んで、地球人として一生を終える奴もいる。でも一番多い意見は、"地球は好きだけど、地球人は嫌い"という意見だ。確かに嫌な人もいるし、基本的に驕っているけど、そんなの仕方がないじゃないか。だって彼らはこの世界しか知らないのだから。地球人にこちらの星の道理を強要するのは、生まれたての赤子に九九を覚えさせようとするようなものだ。

「…」

ユミコはさっきからずっと下をむいて黙っている。こんなに静かなユミコは珍しい。僕の故郷の人達は基本的には喋らない。喋らなくても情報の伝達ができるからである。この世界で言うところのテレパシーというやつだろう。喋るのは、テレパシーで伝えたことと逆のことを口にしてふざけるときくらいだ。発声なんていうめんどくさいことをやりたがるやつは、この時代にあえてガラケーを使っているやつのようなものだ。だけど、地球から帰ってきたばかりのやつが間違えて喋ってしまうのをみることはよくある。よくそんな面倒くさいことできるなと思っていたけれど、案外慣れれば容易いものだ。


「私たち、もう2年も付き合ってるんだよ?」


ユミコが絞り出すような声でいった。たった2年じゃないか。とも思いつつ

「そうだね。」と相づちをうった。


「なのにお互いのこと知らなさすぎじゃない?」

「そうだね。」


いや、そっちがいつも聞かれてもいないのにベラベラ喋るから僕は割と把握してるつもりだが…


「そうだねじゃなくてさ、ちゃんと話し合おうよ。」

「うん」

いつも話を聞かないのはそっちじゃないか。


「うんじゃなくてさ………やっぱり私たち、別れた方がいいかもね。」

「それは困る!今までの観察が全部無駄になるじゃないか!」



しまった。思わず口に出すはずの言葉と心の中での言葉を逆にしてしまった。


「はぁ…?観察?なにそれきっしょ!今までそんな風に思ってたの……?もういい!!!」


そう吐き捨てると、ユミコは走ってカフェを出ていった。しくじった。自分が異星人であることがバレるような発言には気を付けないといけないのに。でも、ユミコなら多分、気づかないだろうからさほど心配しなくてよいのだ

。これが僕がユミコと一緒にいる理由でもある。気を使わなくて良い関係って、相当理想的じゃないか?


僕の予測だと、ユミコは明日あたりには「ごめん、あたしも悪いとこあったかも」とかいって連絡してくるだろう。この前、コンビニの店員に連絡先を渡していたのがバレたときも、その前ユミコの妹と食事に行ったのがバレた時もそうだった。なぜ人は繰り返すのだろうか。わからないことはまだ多い。だから、もう少し、ここにいてみよう。そう思いながら、グラスに入った水を少し口に含み、この星を味わった。









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