JUDGMENT

柊さくの

第1話:さようなら

薄暗い室内に、噎せ返るような鉄錆のにおいが充満している。


「う"ぅ"…………***、あ、いし……る……。」

『……あぁあ、終わっちゃった。こんなに呆気なく死んじゃうなんて、残念だよ。』

目の前に転がる、【母親だったモノ】を酷く冷めた目で見下ろす。楽に殺す気なんてなかった。言葉通り、とても残念な気持ちだ。

『愛してる、ね。俺は愛したことなんてなかったよ、クソババァ。あぁ〜、初めてだから加減がわかんなかったのがダメだった。もう少し冷静に、慎重に殺るべきだったなぁ。まぁ次は失敗しないよ。あんたの【本当に愛してる】あいつも、すぐにそっちに送ってやるから。』

吐き捨てるように言ったあと、さて、と動き始める。【***】に関する痕跡を全て消し去らなければならない。とはいっても【***】の痕跡など初めからほとんど存在しない。必要な日用品などは全て鞄に詰め込んだ。あとは髪の毛など落ちていないかしっかり確かめて終わりだ。



『よし、こんなものか。』

一通り確認した。本当にこれで最後だ。ふぅ…と一息吐き、玄関にむかう。

玄関の扉を開き最後にチラリと部屋の方に目を向ける。

『さようなら、【オカアサン】。』

扉を閉め、歩き出す。もう振り返ることはない。

『さて、【次】に行きますか〜♪』

男の弾んだ声が闇夜に溶けた。

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