第34話 ジャガンナート教団のカチコミ

「そのまんまよ。なんか刺激が強そうな仕事だしさぁ」


「いや、あのな、便利屋っつったってあれだぞ? 仕事ないときはメチャクチャ暇だし儲かるかっていうと……」


「あの、なんで……? 刺激が強そうっていうのはどういう?」


「私は色んな戦場を渡り歩いてきたけど、結局私の心を満たしてくれる場所はなかった。でもこの街なら私を満たしてくれるかもって足を運んだのよ。で、今日アナタたちに出会ったってわけ。ね~助手として雇ってよぉ~」


「え、いや、ええ!?」


「ちょ、だからってなんでゲオルの!」


「ん~、運命ってやつを感じたから? 胸揉まれたし」


「ちょ! 待て待て待て! 確かにあれは悪かったけどよ!」


「アハハ~大丈夫。別に脅しで言ってんじゃないの。これから食べていくための就活よ就活。あ、住む場所も決めてないからさぁ~。住み込みってオッケー?」


「ダ、ダメに決まってるじゃないですか! そ、そ、そんな格好をした女性とゲオルが同じ屋根の下でだなんて……」


「冗談よ冗談。……この人反応可愛いね。彼女さん?」


「好きに解釈してくれ……。でもなぁ、悪いが雇うことはできない。ひとりでやってくので精一杯なんだ。もしもやるのなら自分で開業するかほかを当たるこった」


「なぁんだ……ま、そんな簡単に見つかるわけないわよねぇ」


 肩を落としながら彼女はコーヒーをひとすすり。

 安堵したゲオルとティアリカもつられて飲む。


「あの、じゃあ地道に働くというのは? 飲食店でもどこでも……」


「ハァァアア!? そんなのイヤ。つまらない。私は面白そうなことをして生きていたいの! それこそ生き死にのかかったギリギリの一線を見極めながらね」


「根っからのバーサーカーかアンタ」


「お、バーサーカーいいね。バーサーカー・オルタリア。なぁんだこっちの異名のほうがカッコいいじゃない」


「言ってる場合かよ。……でも、そうだな。紹介だけならしてやるぜ」


「え、仕事?」


「あぁ、恐らくアンタにピッタリの職場だ。さ、勘定済ませようぜ。さらば俺の財布の中身、短い付き合いだったな」


 3人は料理店を出たあと、別の店へと移動する。

 キャバレー・ミランダよりも規模は小さいがそれなりに儲かっているキャバレー。


 これにはオルタリアもムッとして。


「これ、どういうつもり?」


「まぁ来ればわかる。支配人に認められりゃ、アンタも『メンバー』に入れてもらえるだろうぜ」


「メンバー? ガールとしてじゃなく」


「ついさっきの流れでガール応募に入れさせるかよ。ついてきな」


 "CLOSE"の札がかかったドアを開け中へ入る。

 薄暗い空間の奥にあるカウンターで筋骨隆々の屈強な男がゲオルたちに視線を向けてきた。


「よう支配人。景気はどうだい」


 ゲオルとわかるや支配人はパァっと顔を明るくし。


「あぁぁら! ゲオルじゃなぁい! 久しぶりねぇ元気してた? こないだの屋根裏修理と厨房の皿洗いとか、ンもぉおおめっちゃ助かったわぁ!」


「そりゃなによりだ。人手不足で困ってるときは俺を呼びな」


「んふふふ、そうする。……んで、そちらのおふたりは? 両手に華ねぇ。この色男。でも残念。羽振りのいいとこ見せてカッコつけたいつもりなんでしょうけど、今日は休業日なの」


「いやいや、そうじゃねえ。今日はアンタに新しい人員を紹介をしにきたんだ。……『例のアレ』、人手不足だって言ってたろ? あの青い髪のほうを入れてやってほしい。どうだ?」


「────! そのこと、あの娘に言ったの?」


「いんや。言ったほうが手っ取り早くすむんだろうが、まぁそれじゃアンタが納得しないだろうって思ってな。気配り上手」


「なるほどね。腕はどうなの?」


「……彼女の名はオルタリア・グレートヒェン。不死と鮮血の聖女って名が通ってる」


 その異名を聞いた瞬間、支配人の顔が静かな驚きで染まっていく。


「マジ? そんな『上玉』寄越してくれちゃうわけ?」


「おぉ、気に入ってくれたみたいだな」


「アンタ、彼女が何者か知らないの?」


「いや、戦場を渡り歩いた凄腕の傭兵ってことぐらい、かな」


「……まー、便利屋ってレベルならその程度の情報だわね」


「へ?」


「いいわ。まずはこのキャバレーの用心棒として雇ってあげる。住み込み三食付き。どう?」


 この提案にオルタリアは表情を明るくする。


「乗った! ……ここって治安悪そうだし、乱暴な客とかいたら任せて」


「ふふふ、威勢がいいわね。アタシはカザクリ。ここの支配人よ。じゃあ部屋に案内してあげるからついてきなさい」


「よかったな。アンタ、ラッキーガールだぜ」


「やっほう! ありがとねゲオル~!!」


「うぉお!?」


 ゲオルに思いっきりハグして頬にキスをした。

 その光景にティアリカは口をあんぐり開けて固まってしまう。


「あ、今夜また3人でご飯食べましょうよ! 今度はおごれって言わないからさ」


「お、おう……ティアリカもそれでいいか?」


「は、は、はいッッッ! えぇ是非とも。そうさせていただきますともッ!!」


 そう言ってオルタリアとは反対方向に回りゲオルの腕に身体を寄せる。

 

「ちょ、お、おいったら!」


「あれれ~ゲオル照れてんの~? ティアリカ嫉妬させちゃって罪な男だねぇアハハ~」


「いや、あれはお前が……っていうか、ティアリカお前」


「し、してませんッッッッ!! 嫉妬なんて全然してませんッッ!!」


「うわぁあ! 耳元で叫ぶな! てか、お前ら……色々当たってる……」


 ワキャワキャする3人をカザクリは冷たい目で見ながら。


「やっば……めっちゃぶん殴りたい」


「いや見てないで止めろ!!」


 オルタリアとも別れ、ようやくふたりだけの時間を取り戻せたと思ったが、道中ティアリカが無口になった。

 しかしピッタリと隣に並んで歩くので、威圧感がすごいことになる。


(まったく、休日だってのに仕事するより疲れるじゃねぇか。……それにしても)


 オルタリアのことが少し気になった。

 支配人が言っていた"彼女が何者か"という意味。


「……オルタリアさんのことを考えているのでしょう?」


「あぁ」


「……ッ! や、やっぱり……」


「え、いや、おい違うぞ? 支配人が言ってたろ! 彼女が何者か知らないのかって!」


「言ってましたけど、……本当にそれだけですか?」


「……誓って言う。俺はお前を泣かすようなことはしたくない。そしてしない」


「……」


(やっべすっげぇ睨まれてる……)


「わかりました。とりあえずは信じます」


「感謝する」


「それでなにが引っ掛かるんですか? あと、話に合った『例のアレ』とは?」


「聞こえてたか……あ~、そうだな。ちょっと別の場所で話そう」


 場所を変えるために足を運ぼうとしたとき、ゲオルとティアリカは嫌な気配を感じ慣れた動きで身を隠した。


「おい、あれって……」


「えぇ……」


 

 白を基調とした軽装甲服を身にまとった集団。

 ────ジャガンナート教団の行動隊だった。



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