【書籍化決定!!】元英雄は大都会最強の便利屋さん。~元聖女のバニーガールとともにあらゆるトラブル解決いたします~

支倉文度@【魔剣使いの元少年兵書籍化&コ

第一章

第1話 酒と涙と聖女とバニーガール

「ウソだろ……オレたちはこの街最強のチーマーだってのに!」


「ほ~ん、最強ねぇ。今じゃこんな弱いのでも最強を名乗れるんだ。世も末だな」


「く!」


「このやろうッ!」


「まだやるってのか? じゃあハンデやるよ。右腕だけで戦ってやる。ただしさっきよりかは痛い目見てやるぜ?」


「ひ、ひぃい!」


「に、逃げろ!」


「おう、今度から喧嘩の相手は選べよ~」


「あの、ありがとうございます……なんとお礼を言ったらいいか」


「お礼、かぁ……。あ、じゃあ俺の話するときこう言っといてくんない?」


「なんです?」


「……『何でも屋っぽいの』の"ゲオル・リヒター"が助けてくれたってな」


 6月の暑さが日に日に増していく季節。

 飄々とした若さの中に歴戦の渋さをかねそなえた男がニヒルな笑みを浮かべながら、からまれていたところを助けた男性にきっちり宣伝を行う。


「何でも屋っぽいの、ですか?」


「おう、俺今日からこの街で世話になることにしたからよ。酒飲み友達にでも俺のこと宣伝してくれや」


「へぇ~、この街で。やっぱり強い人はやることが違うなぁ。元軍人さんかなにかですか?」


「ん、まぁそんなとこだ。じゃあな~」


 ここは大陸一の大都会。

 巨大魔導城塞都市『ヘヴンズ・ドア』。


 ネオンの光とともに人々の欲望も一層輝く一方、闇と影の中で神秘と怪異が入り混じる伏魔殿。


 「人混みはすごいわキラキラ眩しいわで見ているだけで別の意味で熱くなるな」


 時刻はすでに夜。

 涼しい顔で街を歩くと、巨大な酒場を見つけた。


 カジノなども取り持っているようで、中は人が多い。

 興味が湧いたので入ってみる。


「ほ~、賑わってんなぁ。……おぉ!」


 最初に目についたのは幾人ものバニーガール。

 忙しなく酒をテーブルへと運んだり、VIP席で幾人かが客の相手をしている。


 カジノエリアでも彼女らが働いているのが見えた。


「あーあ、あのおっちゃんポーカー負けてやんの」


 ゲオルは席に案内され、しばらく座ってるとひとりのがやってきた。


「ようこそ。キャバレー・ミランダへ! ご注文はお決まりですか?」


「あ~、とりあえずこれをロックで」


「ほかにご注文など……は? ……え? その声……」


「……その声ってなに、……あ、え? お前……」


 振り向くとワナワナと震えるバニーガールがいた。

 腰下あたりまで伸びるブロンドヘアに煌めかしい碧眼を持つ美女。

 

「……へ? ティアリカ? え、聖女……お前、なんで……」


 聖女ティアリカ。

 魔王討伐のために人類に貢献したひとり。


 あの特徴的な白い聖装束ではなく、黒を基調としたバニーガール衣装をまとい接客をしているのだから驚きだ。


 女神的女体たる艶美な曲線。

 あのピッチリとした聖装束でもそれは見てとれたが、今の衣装のインパクトはそれをはるかに凌駕する。


「ゲオル・リヒター……な、なぜ、アナタ……ここに」


「なぜって、俺今日からこの街に住むからさ……」


「住む!?」


「ってか、お前こそどうしたんだ? ……ん? おーい」


「……い」


「い?」


「イヤァァァァァアアアアアッッ!!」


「あ、ちょっと待て!!」


 ティアリカはパタパタと逃げ出してしまった。

 それを追いかけようとすると。


「ヘイ、メェン」


 黒服とサングラスの似合う厳つい大男ブラザーたちに囲まれてしまった。


「ガールたちへのおさわり、迷惑行為、禁止ネ」


「ユー、なにやったカ?」


「事務所でお話キキマッセ、シャッチョーサン」


 ティアリカの悲鳴で客や従業員の視線が集中している。

 穏便にすませよう。


「……昔の馴染みだったんだ。だがもしかしたらそっくりさんかもしれない。それを確認するためにもう一度会わせてくれないか? もちろんブラザーの監視のもとでだ」


「ダメに決まってんダロ」


「身の程わきまえヤガレ」


「ここで叩きのめされタインカ? ブッチョーサン」


 引き上げるしかないと思った直後だった。

 ウェイターがやってきてブラザーたちにこう告げる。


「すみません。ティアリカさんが屋上まで丁重にお連れしろ、とのことです」


「……聞きやがりマシタカ?」


「屋上まで案内シテヤル。ミーたちのケツをジロジロみんじゃネェゾ」


「屋上でふたりきり。なにも起きないハズはナク……」


「黙って案内してくれ」


 屋上へやってきたゲオルはその壮観さに思わず息をのんだ。

 地上の光と喧騒が夜の闇に吸い込まれていくであろうあの境目が堪らなくいい。


「ここ、お前のお気に入りの場所か? ティアリカ」


「……」


 柵に寄りかかるようにして待っていたかつての聖女。

 彼女はゆっくり振り向くと涙目で唇を噛んでいた。


「な、なんだよ。そんなに俺にバレたくなかったのか?」


「アナタだけでなく、ほかの人にもできればそうしたかった。でも薄々わかっていました。そうできないのは。それが今日だったなんて。それでビックリしちゃって、その……」


「いや……。隣いいか?」


「えぇ、どうぞ」


「あんがとよ。ふ~、気分を落ち着かせるにはもってこいの場所だな。……昔からお前はこういう高いところで夜風に当たるの好きだったよな確か」


「……聞かないんですか? なんで私がここで働いているのかって」


「どっちかって言うとな、俺はお前のバニーガール姿を褒めたい。エクセレント。前から思ってたんだよ。もっとセクシー路線な服着りゃいいのにって」


「そうやってからかって……」


「ん!? お前、怒らないの? 前なら『不埒です!』とか『なんて破廉恥な!』とか言ってめっちゃ怒るのに」


「色々あれば変わりますよ。私だって……」


「いや変わりすぎだよ。包丁二刀流で振り回してきたときあったよな忘れてねぇぞ俺」


「いつの話ですか? 忘れました」


「はぐらかし方も様になっちゃって……」


 ほんのしばらく、昔話に華を咲かせる。

 このときのティアリカは懐かしそうにしながらもどこか悲しげな笑みをこぼしていた。


「それでアナタったら私を助けるために魔炎の中に突っ込んでいって。死んでしまうんじゃないかって心配したんですから」


「んで、ボロボロになった俺を見てギャン泣きしながらお前は回復魔術かけてたな」


「ギャン泣きって……私そんなに泣いてません!」


「い~や、めっちゃ泣いてた。俺はこういうのは覚えてるんだ間違いない」


「い~え! アナタの記憶違いです! 確かに泣きましたけれども当時の私がそんなはしたなくするはずがありません!」


「ま、そういうことにしてやるよ」


「ちょっと!?」


「おぉっと! またビンタされんのはゴメンだ!」


「もう、……フフフ」


「ティアリカ……?」


 彼女はふと笑みをこぼし、そして泣いた。

 彼の胸にすがるように、ティアリカは静かに泣いて、ゲオルは黙って彼女を受け入れる。


 魔王が倒されて早3年あまり。

 聖女と勇者を中心としたパーティーでゲオルは皆と最後まで戦い抜いた。

 そのときからティアリカの涙は『絶対』に見たくなかったのが……。

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