第5話 クレアの夢見

「ああ それは聞いたことがあるわ

予知夢で 未来を大きく変えることは難しいってことかしら?」


「僕と父上はそう思っています。

 ああ そうだ 姉上付の侍女クレアも姉上の夢を見ていたんだよ」


ヒビキがふと思い出した様に言う


「え? クレアにも予知夢能力があったの?

女性なのに わたくしには無いのに…」


「ははは クレアが見るのは姉上の夢だけです。

 姉上が大好き過ぎて 神様が見せてくれたんじゃないですか?」


寂しそうに言うビクトリアをヒビキが笑い飛ばす



「クレアも今日の事を夢に見たの?」


「知りたい?」


「ええ」


「落ち込まない?」


「もう ここまできたらもったいぶらないで頂戴」


「かわいい…」


「え?」


弟からの”かわいい”が ビクトリアにしっかりと聞き取れたようだ。


「いいえ、クレアの夢の話ですね

クレアの夢は 今日より半年先の卒業パーティの時に起こりえた夢でした」


半年先と言われて ビクトリアが身震いする


「…何が起きるの?…」


ビクトリアをなだめるように ヒビキがビクトリアの髪を撫でる


「僕が見た夢のように 打ち上げパーティで王子に対し『証拠も無いのに 可笑しいこと』と笑った姉上に対して腹を立てた王子や 王子の側近たちが 証拠を握って 証人まで用意して姉上を断罪する って夢らしいですよ」


ビクトリアがパチリと大きく瞬きする


「証拠?証人? わたくしが何をするのかしら?

断罪されるようなことをするの?」


「夢の中の姉上です 僕の横にいる可愛らしい姉上には出来そうもない手の込んだ事ですよ」


「そ そうなのね 少し 馬鹿にされたような気もするけれど?

それで その予知夢のわたくし、どうなっちゃうのかしら?」


「国外追放 だそうですよ?

それから ネイビー家も莫大な賠償金を払わされるそうです。」


「え?

ネイビー家までが関わるような大事をわたくしが?」


眉を下げるビクトリアにヒビキが笑う


「くす 出来ないでしょうねえ 姉様には いろいろな意味で…」


ビクトリアは今度は怒ることなく、ほっと胸をなでおろす


「ねえ 姉上、

実は それが今 屋敷に向かっていないという事実にも関係があるんだよね

父上がね 『念のために”国外追放”はされとこうか?』 と言いだしましてね、

今 僕たちは 国外に向かっているというわけです。

まあ 外国旅行だと思って下さい。」


「あら?国外追放だと思うと辛いけれど

外国旅行だと思うと なんだかウキウキしてきたわ」


「そうでしょ?

もう 父上も母上も メイドたちも先について僕たちを待ってますよ」


「お忙しいお父様なのになんだか申し訳ないわ」


「父上は 僕やクレアの夢の話を聞いて随分早い時期から手を回していたようです。その上での”念のための国外旅行”です。


父上も母上も久しぶりの旅行だと随分楽しみにもされていて、かなり計画的に先の分までの仕事を片付けてきたみたいだよ」


「まあ お父様は夢見の当主ですものね 予知夢や その対処なんてお得意なんでしょうけど

それで ヒビキはお父様がどんな夢をご覧になったのか知っているのかしら?」



「残念ながら 詳しくは僕も知らされていないんです

でも 

貴族令嬢にしてはお姉さまが緩く育てられて ポンコツ、じゃなくて、おおらかなのは 父上の教育方針ですよね?

何か予知していて 回避に走った結果だと僕は思っています


わが家と ビクトリア ネイビーに起こり得た悲劇を未然に防いだ 最大の功労者は父上でしょうね 僕じゃないのはちょっと残念ですけれど――」


「流石 お父様 じゃあ 私は ホウレンソウ する必要はないのかしら?」


大好きな父が 自分の為に動いていてくれたと聞いて ビクトリアは嬉しそうだ。



「僕の方から済ませて置けば十分だと思いますよ」


「ありがとう ヒビキ」


今度は ビクトリアの方から ヒビキの首に抱き着いた。


「うん 申し訳ないよりも ずっと いいですね 姉上にお礼を言われるのは」


ヒビキが顏を赤らめる


「安心したら 少し眠くなってきてしまったわ」


「まだ 国境まではしばらくかかるから 僕によりかかって目だけでもつぶっておく?二人しかいないから だれにも叱られないよ」


「ふふ そうね すこし寄りかからせてもらおうかしら … おおきくなったわよね ヒビキ … すっかりたくましくなっちゃって 寂しいような気もするわ」


間もなく ヒビキの胸に寄りかかるビクトリアから軽い寝息が聞こえてきた。


***


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