第7話 妻としての覚悟
シャルロッテは目が覚めると涙で腫れた目をこすってベッドから起き上がる。
隣の椅子には腕枕をして眠るエルヴィンの姿があった。
(エルヴィン様……)
昨夜、シャルロッテは抱き着いて泣きわめいた後にそのままエルヴィンの腕の中で眠ってしまった。
エルヴィンはシャルロッテを起こさないようにそっとお姫様抱っこをすると、自分のベッドへと寝かせる。
柔らかいシルクの生地のシーツが、シャルロッテを優しく包み込む。
「ん……」
心地よいのかシャルロッテはもぞもぞと動いてシーツに顔をうずめていく。
エルヴィンはその様子が愛しくてしょうがなく、起こさないようにそっと微笑みながら暖炉の火を消しにいった。
こうして二人は眠り、起きた頃には朝食の時間をとっくに過ぎていた。
シャルロッテが起きた気配を感じ、エルヴィンも目を覚ます。
エルヴィンは自分の目の前で目をこするシャルロッテの腕を掴み、慌てて止めた。
「ダメだよ、シャルロッテ。腫れているときはこすっちゃ」
「あ、そうなのですか……」
涙を流したことがあまりなかったシャルロッテは、目が腫れることなど意識したことがなかった。
それに他人からもそのように愛情をかけてもらったことがなかったため、彼女はエルヴィンのその言葉に嬉しくなる。
「さて、ラウラに何かランチを作ってもらおうか」
「はいっ!」
二人はたわいもない話をしながら、ダイニングへと向かった。
「おはようございます、エルヴィン様、シャルロッテ様」
「おはよう、ラウラ」
「おはようございます、ラウラさん」
シンプルで広いダイニングの入り口で三人は挨拶をする。
「軽いランチでも作ってもらえるかな?」
「かしこまりました、すぐにご用意いたしますのでお席でお待ちくださいませ」
そういってラウラはキッチンがあるほうへと向かって行く。
エルヴィンとシャルロッテはいつもの自分の席につくと、珍しくシャルロッテから声をかけた。
「エルヴィン様」
「なんだい?」
「私、エルヴィン様に相応しい妻になれるようにたくさん学びたいです」
「それは昨日のお茶会が関係しているかい?」
「ええ、でも嫌な思いをしたくないからじゃなくて、立派な妻となれるように前向きに努力をしたいのです」
その言葉を聞いて目を見開くエルヴィンは、さっと自分の席を立つと椅子に座るシャルロッテを後ろから優しく抱きしめた。
「エルヴィンさまっ?!」
「なんて可愛いことを言うんだい。私は嬉しいよ。今でも立派な妻だと思っているけれど、シャルロッテがしたいならたくさん学べばいい。そのための手配や準備はいくらでもしよう」
「ありがとうございますっ!」
シャルロッテは嬉しそうにエルヴィンに答えると、そのまま後ろを向いてエルヴィンの首に手をまわす。
「──っ!」
エルヴィンはシャルロッテのその純真でまっすぐな感情表現に胸を打たれ、さらに強く抱きしめる。
彼の中で一生懸命にがんばるシャルロッテの姿が眩しく映り、そして何より愛しく思えた。
「エルヴィンさま」
「なんだい?」
「ちょっと力が強いです……」
「ごめんごめん、でもシャルロッテが可愛すぎるのがいけないよ」
「そ、そんなことは……」
「こほん」と二人の後ろから咳払いが聞こえてくる。
二人はそっと視線をそちらに向けると、二人分のランチプレートを持ったラウラがそこにはいた。
「旦那様、奥様。仲睦まじいのはよいことですが、少々他のメイドたちには刺激が強すぎます」
わざと「旦那様」「奥様」と呼んでみせるラウラに、二人はそれぞれリアクションをとる。
「わ、ご、ごめんなさい」
「ん~いいじゃないかちょっとくらい」
ようやく密着させた身体を離した二人は、ラウラの持ってきたランチプレートに口をつける。
「エルヴィンさま」
「ん?」
シャルロッテがナイフとフォークを置いてエルヴィンの目を真っすぐ見つめて言う。
「私、エルヴィン様をお支えできる強くて立派な妻となります。見ててください」
覚悟を決めて強い目を見せるシャルロッテに、エルヴィンは優しい目と微笑みで応えた──
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