第4話 求婚の真相

 朝食を終えたシャルロッテはエルヴィンに連れられて、昨日シャルロッテが眠った部屋に入る。

 昨日は緊張と疲れで部屋の様子を見る余裕までなかったが、今日は落ち着いて部屋の中を観察することができた。


(ふかふかのベッド?も驚いたけれど、お部屋にたくさん綺麗なものがある)


 爽やかなミントグリーンを基調にした壁に、お花の画や風景画がかけられている。

 窓際には小さめのテーブルに椅子が二つ。

 絨毯は高級感のある赤色に模様があり、部屋の隅には暖炉もある。

 シャルロッテが部屋のあれこれを不思議そうに観察する傍で、柔らかな表情と声色でエルヴィンは告げた。


「このお部屋を好きに使ってくれて構わないよ。シャルロッテのお部屋だから」

「あ、はいっ! え……このような大きくて素敵なお部屋、私が使ってよいのですか?」

「ああ、部屋もシャルロッテに使ってもらって喜ぶと思うんだ。使ってくれるかい?」

「わ、私でよければ……あの、エルヴィン様のお部屋はちゃんとありますか?」


 自分の待遇があまりにも実家と違いすぎて、シャルロッテは思わず彼の部屋の心配をしてしまう。

 エルヴィンは少し虚を突かれたように目を開くと、すぐに笑顔になりシャルロッテの頬を優しくなでる。


「私の心配をしてくれるんだね。優しいね、シャルロッテは。大丈夫だよ、私の部屋はちゃんとあるから。この廊下を出た突き当りにあるからいつでもおいで」


 その言葉を聞いてほっとしたシャルロッテは、「部屋の中を見てもいいですか?」と伺って歩き回る。



 窓からは外の景色がよく見え、綺麗な花が咲き誇る庭園が目に映る。

 そのすぐ横には本棚があり、その本棚はまだ隙間がかなりあって本が新しく入れられそうだった。


(あ、ベッドが綺麗に整えられている)


 シャルロッテが今朝部屋を出るときに、見よう見まねでぎこちなく整えておいたベッドもまた綺麗にベッドメイキングされていた。


「シャルロッテはまずここの家での生活に慣れてみてほしい。何かあれば私かメイドや執事に言ってくれればいいからね」

「あ、はいっ! ありがとうございます。あのっ!」


 部屋を去ろうとするエルヴィンの背に向かって、シャルロッテは言葉をかけた。

 どうしてもシャルロッテには疑問に思うことがある。それは……


「どうして私を婚約者に……?」


 その言葉を聞いてエルヴィンはシャルロッテに再び身体を向きなおす。


「ご存じかもしれませんが、私は実家で忌み嫌われた存在で離れで暮らしておりました。メイドさんのお話だと、私は忌まわしい『金色の目』を持つ存在なのだそうです。ですから、こ……エルヴィン様にご迷惑がかかるのではないかと」


 じっとシャルロッテの話に耳を傾けるエルヴィンは、少し考えた後シャルロッテに語る。


「もちろん知っているよ。その上での婚約、結婚だよ」


 そういって、シャルロッテがいる窓際へと歩き、椅子にかけて続きを話す。


「私はね、ヴェーデル家から届く手紙がある日を境に字が変わったことに気づいたんだ。はじめは特に気に留めなかったけど、次第にその字に惹かれてね。私は文字には心が宿り、書いている人の人柄を写すものだと思っているんだ。それで、その字を書く人物に会いたいと思ってヴェーデル伯爵に声をかけた。私も『冷血公爵』とまわりに恐れられているからね、向こうから婚約の持ちかけがあったんだ。それで私の側近のレオンに調べさせて、シャルロッテの存在を知った」


「私の字を見て……」

「うん。こんな字を書く人はどれだけ心が綺麗なんだろうって。レオンからシャルロッテの境遇や行動を聞くたびに、胸が痛くなったし、それにどんどんシャルロッテのことが気になっていった」


 シャルロッテは黙ってエルヴィンの話を真剣に聞く。


「そうして婚約が成立したその日に、シャルロッテは私のもとへやってきた。実際に会ってみて話をして、やっぱり素敵な女性だと思ったよ」


 エルヴィンは目をつぶって思い出すように微笑みながら語る。

 シャルロッテははじめての感情に戸惑いを覚えていた。


「わ、私はそのような大層な人間ではありません。ですが、その、なんて申し上げたらいいのか……嬉しいです」

「──っ!」


 言葉にできない代わりにがんばって嬉しい表情を作ろうとするシャルロッテだが、ちょっと不器用な笑顔になってしまっている。

 そんな表情を見せるシャルロッテをエルヴィンはたまらなく愛おしくなった。


「え、エルヴィン様っ?!」


 エルヴィンはシャルロッテを勢いよく抱きしめるとシャルロッテの髪と首元に顔をうずめる。

 どうしていいかわからず、それでも恥ずかしさだけ感じるシャルロッテは顔を少し赤らめた。


「本当に結婚してよかった。シャルロッテ、好きだよ」


 その言葉に「わ、私もです」と返すのがやっとだった──

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