第77話 キックオフ

年度替わりをして、私は追加でプロジェクトに参加することになったメンバーの受け入れに相変わらずばたばたしていた。


改善要望対応のプロジェクトに入ったのは3人で、私より1つ年下の後輩である松本まつもとさん、叶野さん国仲さんのプロジェクトにいた金沢さん、残る一人は金沢さんの会社の2年目だというみなみさんだった。


金沢さんは、ある程度安心できるスキルの人がいいだろうと、国仲さんがプロジェクト内で調整してくれて、私のプロジェクトの方に移ることになった。


要員を減らさないといけないタイミングだったから丁度良かった、と国仲さんは言っていたけど、そういう場合は、戦力として期待できる人は残すのが普通だ。なので、これは私の負担を考えてくれての調整だと分かって頭が上がらない。


あと、国仲さんと金沢さんと3人で何度か打ち合わせをしている中で、金沢さんって国仲さんのことが多分好きなんだろうとも気づいた。


でも、金沢さんも国仲さんの指輪には気づいているはずだから、どこまで本気かはわからないけど。


週が明けた月曜日の午前中に、プロジェクト開始の内部キックオフをすることになっていた。


参加者は開発側のメンバーと保守の上村さん、後は、インフラも絡むので要さんにも声は掛けていた。


時間前に会議室に向かって、国仲さんと作ったプロジェクトの計画書の資料を会議室のスクリーンに映す。


準備は整ったけど、これをちゃんと説明できる自信はない。


国仲さんも来てくれることになっているけど、都築さんが作ったんだから、都築さんが説明するのがいいんじゃない? と笑顔を向けられて押し負けた。


金沢さん、南さん、上村さんがまず入ってきて、少し遅れて松本さんが会議室に入ってくる。国仲さんも入ってきて、残るは要さんだけだった。


「まさか、忘れてないですよね?」


「ワタシに聞かれても分からないよ? それに都築さんの誘いを忘れるなんてないんじゃない?」


くすくす笑われて、今朝出掛けに言っておくべきだったな、と思いながら要さんを待つ。


要さんが入ってきたのが、開始時間丁度のことだった。


更に、要さんの後ろにもう一人入ってきて、一緒にいるところを見ればインフラのメンバーだろう。


まだ20代前半くらいの女性だってことが引っかかったけど、国仲さんに始めましょう、と言われて仕事に意識を戻した。


キックオフの出だしは国仲さんが概要を説明をしてくれて、その後で詳細は私から説明しますと振られる。


立ち上がってPLの都築です、と軽く礼をしてから、座ってスライドの説明に入る。


視線は前のスライドに向けているけど、要さんの隣に座った女性のことが気になって仕方がない。


要さんが最近若手の面倒を見ていることは知っていたけど、それが女性だとは聞いていなかった。


先輩と後輩だから並んで座るものかもしれないけど、要さんの隣に私以外の女性が座るのがこんなにもやもやするなんて思わなかった。





キックオフは何とか資料の説明を終えて、詰め切れていないインフラ側との調整事項は後日打ち合わせを設けることになった。


キックオフに参加したメンバーが順に自己紹介する中で、要さんの隣の女性が有瀬さんという姓だということは分かった。


要さんは性格はともかく見た目は掛け値なしの美人だけど、有瀬さんはそこまではいかないにしても華やかさはある。


開発チームが男性ばかりということもあってか、要さんと有瀬さんに本当にインフラなんですよね? と聞いていたくらいだった。


私も要さんと初めて会った時はそう感じたので、みんな考えることは同じなんだろう。


キックオフの後はいつも通りに仕事をして、まだ忙しい状況でもないから定時すぎに切り上げる。


元々飲み会も企画していたけど、国仲さんが午後から客先に戻らないといけないことになっていたので、別日で調整している。


でも、午後から私の心は晴れないままだった。


要さんは若手の面倒を見ているとは言ったけど、それが女性だとは言わなかった。


それって、きっとわざとだろう。


見た感じ要さんと有瀬さんは仲が良さそうで、もやもやしてしまう自分が嫌だった。


こんな気持ちのまま要さんの部屋に帰れるわけはなくて、私はその日は自分の部屋に帰った。


4月に入って、元の半分だけの同棲に戻すつもりだったのに、ずるずると今まで要さんの部屋で一緒に時間を過ごしていた。


週も変わったし、元に戻そうと言えば要さんも文句は言わないだろう。



要さん、今週からお泊まりの日を戻しますね

今週は水曜日と金曜日にします

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