第78話 インフラの体制
私の送ったメッセージに要さんから返事が届いたのは、1時間以上後のことだった。
紗来ちゃん、もうずっとうちに居てくれるんじゃなかったの?
3月末までって約束でしたよね?
いいじゃない
一緒にいる方が楽しいよ
今はプロジェクトの立ち上げに注力したいです
そっかぁ……残念
気が向いたらいつ来てくれてもいいからね
要さんはわりとすんなり生活を元に戻すことを認めてくれた。
要さんといることに疲れてはいないけど、一人になれば一人が落ち着く。
1Rの部屋に2人でいると、ほとんどが見える範囲にいるからプライベートなんて全くない。要さんに気兼ねをしているわけじゃないけど、他人といれば最低限の緊張は誰にだってあるだろう。
最近私の生活が要さん中心になりすぎている気がする。
要さんは大好きだけど、まだ私と要さんの付き合うことに対しての心持ちには差があると思っている。
多分いざという時になれば、私はまだ迷うだろう。
強くなりたいのに、要さんの傍に別の女性がいるだけで心が揺れてしまう弱さが憎い。
どうしたら、こんなことを気にしないくらいに強くなれるんだろう。
要さんと次に顔を合わせたのは水曜日の午後で、インフラとの個別打ち合わせの場だった。
参加者は開発側からは国仲さんと私で、インフラ側は要さんと有瀬さん。
たまたまだけど全員が女性だった。
「インフラはこれから有瀬さんに交代していくの?」
国仲さんからの言葉に胸を飛び上がらせる。
考えてみれば、開発チームだってある程度経験を積めば次の仕事に移って、今までの仕事は下の年次に引き継ぎをする。インフラだって、そうしてもおかしくはない。
「有瀬さんはわたしにくっついて一緒に作業をシェアしている状態なので、まだそこまでの話にはなっていませんよ、国仲さん。わたしの手持ちの仕事を部分的にお願いしていくことになるかなと思ってますけど、このプロジェクトがそうだとは決めてませんから」
要さんの言葉に少しだけ安心する。
要さんと仕事で関われるのは、インフラに作業依頼をする少しの間だけだ。
できれば担当は離れて欲しくない。
「そうなんだ」
「まだ有瀬さん一人に任せるのはちょっと荷が重いですしね」
「ワタシは一人でもできます」
不満げに有瀬さんは頬を膨らませる。
どうやら感情が表に出るタイプらしい。
「実力の伴わない過信は駄目だって言ったでしょう? インフラは一人でやらないといけないことも多いから、早く一人前になりたいなら周りに聞くことも大事だからね」
要さんが先輩の顔をしていて、ちょっと格好いい。
同じフロアなら後輩を指導する要さんももっと頻繁に見られたのに。
だって、好きな人の働く姿は見たいって思うものじゃない?
「都築さん、ごめんなさい。余計な話で時間を使っちゃって。打ち合わせ、始めて」
「分かりました」
要さんの言葉で、私は会議室のスクリーンに資料を投影する。
今日の打ち合わせの目的は2つ。
1つめが今回の改善要望プロジェクトでのインフラに関わる改修箇所の説明で、2つめがインフラ作業スケジュールの大線表の確認だった。
12月の予算取りの時点では未確定要素が大きかったけれど、そこからお客さんの要望を更にヒアリングして、改修範囲はほぼ決まってきている。
それを説明して、インフラに関係するポイントで議論を詰める。
要さんは予算見積もりの時に話を聞いてくれているので話は早くて、今回はすんなり調整が進んだ。
「こんなスケジュールなんて、無理に決まってるじゃない」
話が大線表の話に移って、しばらく黙っていた有瀬さんが口を開く。
「これは以前仮で作ったスケジュールなので、今回の打ち合わせで対応内容をFIXさせて、改めてインフラの作業スケジュールは提示いただければと思っています」
「それにしてもおかしくない? 何でも言えばインフラはすぐにできると思ってない?」
私に対して有瀬さんは好戦的に思えて、とりあえず謝った方がいいだろうか。
「有瀬さん、言い過ぎ。それに、このインフラスケジュールを提示したのはわたしだから。都築さん、要件で増えてる部分もあるから、改めて提示するでいい? このテスト開始のスケジュールには影響しないように調整するから」
「分かりました。よろしくお願いします」
要さんの言葉で有瀬さんは押し黙って、何とかその場は終息した。
今日分かったのは、有瀬さんはなかなかに押しが強いということだった。
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