第55話 歓迎会
2月の第1週は、上村さんへの業務説明準備の為にほぼ毎日残業になって、更に金曜日には上村さんの歓迎会をすることになった。
歓迎会は上村さんと私だけでは寂しいので、国仲さんにも声を掛けた。後は私の上司も参加する予定だったけれど、来年度の予算を決める時期で行けそうにないと直前でキャンセルになった。
そこで急遽、国仲さんのプロジェクトで上村さんと同じ会社の人を一人誘って、定時後に会社近くの居酒屋に向かった。
上村さんの先輩にあたるという
その金沢さんと上村さんが横並びで座って、向かいに国仲さんと私が座る。
最近は社内で関わるのが国仲さんと要さんくらいだったので、こういう職場の飲み会らしいのは久々だった。
それぞれ飲み物をまずは頼んで、4人だし堅苦しくすることはないか、とそのまま乾杯をする。
「1週間都築さんと一緒にやってみてどうですか? ちょっとは慣れました?」
上村さんに話を振ってくれたのは国仲さんだった。国仲さんに笑顔を向けられると無意識に笑顔を返してしまうのは上村さんも同じようだ。
「都築さんは俺より1つ下だって思えないくらい、色んなことに詳しくて、丁寧に説明してくれるので、業務のイメージは掴めて来ました」
お世辞なのかもしれないけど、そう言われると残業してやった甲斐はあったと嬉しくなる。
「それは良かった。都築さん、真面目できっちりしてるから、何でも聞いたらいいと思うよ」
「何でもは言い過ぎじゃないでしょうか、国仲さん」
「でも、最近聞きに来る回数減ったでしょう?」
一人で仕事ができるようになりなさいってことだろうけど、なかなかそういう自信は出ないものなのだ。
とはいえ、
「流石にずっと同じことを聞き続けるのは申し訳ないですから、できるだけ自分で調べるようにしてます。ただでさえ国仲さんはお忙しいので」
それに大きく頷いてくれたのは、国仲さんと同じプロジェクトの金沢さんだった。上村さんと同じ会社の人だとは聞いているけど、どういう関係かをまずは質問する。
「金沢さんと上村さんは同じプロジェクトで仕事をされたことはあるんですか?」
「いや。グループが同じだけで、飲み会くらいですね。でも、上村に何かあればオレに言ってきてください」
「金沢さん、それは俺が何かやらかす前提じゃないっすか」
「お調子者だからな、お前は」
直接同じプロジェクトで関わっていないとしても、2人は気心の知れた先輩と後輩のようだった。
「俺は仕事は真面目にやってますよ」
「それは仕事以外は真面目じゃないってことだろう。都築さん、こいつには厳しくでお願いします」
「私の方が年下なので……」
「そういう遠慮はいりませんから。オレがOK出します」
「金沢さん、何自分だけいい人アピールしてるんですか」
比較的年齢層が近いせいか、仕事での飲み会と言っても堅苦しさはない。同期会ほど緩くもないけど、適度に緊張はあった。それは異性だからなのかな。
人間関係を築くのは、これから一緒に仕事をしていく中でになるだろうけど、一つ上ということ以外のやりにくさは今週一緒に仕事をして感じなかった。仕事ができる人かどうかは見えてないけど、コミュニケーションを円滑に取れることは重要だ。
「でも、春からどういう体制になるかだね」
国仲さんが言った『春から』は、春には改修要望対応のプロジェクトが始まることを指していた。
上村さんが入ったのもこのプロジェクトに関係してのことで、4月からは私は改修要望対応のプロジェクトの方に主軸を置いて、保守作業の方は上村さん中心にやってもらう予定になっている。とはいえ、改修要望対応は、私一人で進められる規模ではない。
「国仲さんは参加されないのでしょうか?」
元々いた先輩は戻ってくる目処が立っていないという所までは聞いていた。そうなるとリーダ的な役割ができる人は国仲さんしか思い浮かばない。
「ワタシは4月からはシステムテストでお客さんのところに行くことになってるから無理じゃないかな」
「じゃあ、誰がリーダをするんでしょう?」
「都築さんかな」
「絶対無理ですよ〜」
まさか、とは思うものの、どういう腹づもりかを聞ける存在がここにはいない。とはいえ、もう2月なので遅くとも今月中にはプロジェクトメンバーを集め始める必要があるだろう。
今週は上村さんのことでばたばたしたけど、今月は日が少ないのにやらないといけないことが盛りだくさんになりそうでちょっと怖い。
「大丈夫、大丈夫、みんな通る道だから」
気軽に国仲さんは言うけど、国仲さんに言われたからって安心はできない。
「人には向き不向きがあると思うんですけど……」
私は今まで前に立ったことなんかない。自分でできることを頑張って来たけど、それが人より秀でてると思ったこともあまりない。おまけに出世をしたいという欲もないし、リーダなんてできるなんて気がしなかった。
「ワタシだって、自分になんかできないだろうなって思っていたけど、何とかなってるからやってみるでいいんじゃない?」
機会があれば、ととりあえずは逃げておく。
上司が春からのプロジェクトの体制をどう考えているかは、国仲さんの考えとはまた別のはずだと言い聞かせて。
「そういえば、今日は楠見さん誘わなかったんだね」
「楠見さんを誘うと女性3人に男性は上村さん1人になるので止めました」
保守運用に関わるという意味では要さんも関わりがあるものの、要さんを誘うと別の意味で心配事が増えるので声を掛けなかったのだ。
「楠見さんっていうのはインフラ担当の人で、うちの会社で一番の美人なんですよ」
国仲さんが、楠見さんに思い当たっていないだろう上村さんに補足説明をしてくれる。
でも、会社の中で一番の美人は流石に言い過ぎじゃないだろうか。美人なことは美人だけど、それなりに規模のある会社だし、全員を見たわけでもないので要さん以外にも美人がいるかもしれない。
「それはぜひお会いしたいですね」
今までは、一緒に仕事をしても他人の目を気にすることはなかったけど、これからは事情を知らないメンバーも増える。怪しまれるような態度は取らないようにと、要さんには釘を刺しておいた方がよさそうだった。
家でいちゃいちゃするのはいいとして、自分たちが今まで通りいられるように、外では節度ある触れ合いに留めておこうと要さんとは先週話をした。
とはいえ、要さんへの信頼はちょっと低めだった。
「そのうち打ち合わせとかで顔を合わせると思います。でも、楠見さん恋人がいますからね」
これは何て言うか、上村さんがもし要さんを気に入ってしまって、後から落ち込んだりしないようにという防波堤のようなものだ。
私のだって主張じゃない。
「そうなんですね。とはいえ、どんな美人かお会いしてみたいですね」
男性は美人には興味が沸くものなのは分かっていたけど、ちょっとだけ要さんの美人さが憎くなったりした。
これって焼きもち?
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