第20話 友達の話

打ち合わせの後、要さんからの宿題の回答をするために、今のプロジェクトの設計書類の見直し、国仲さんへの相談、お客さんへの確認と忙しなく動きまわった。


100%今の時点で決めなくてもいいからと国仲さんも言ってくれて、調査できた範囲でExcelに纏める。


20時前に何とかその資料を要さんに送信して、今日の仕事を終えることにする。


メールを送信してすぐに、個人持ちのスマホの方に要さんからメッセージが届く。



お疲れさま

メールありがとう

わたしもまだ社内にいるんだけど帰りにどこかで食べて帰らない?


すみません

今日は疲れたので早く帰ってゆっくりしたいです



これから会えば要さんは今日のことを慰めてくれるだろう。

でも、今日は要さんに甘えたくはなかった。


翌日には要さんからインフラ側の見積もりがメールで届いて、お客さんへの回答も済ませた。


仕事としては一つ新しいことができたにはなるけど、私の心は晴れないままだった。


要さんとのやりとりも、ここ2日間は儀礼的な挨拶だけになっている。


人間ができてなさ過ぎだな、と自己反省しながら仕事には向かう。


「都築さん。今日ってお昼お弁当?」


午前中、私の傍を通りがかった国仲さんが足を止めて、声を掛けられる。


「いえ、今日は寝坊したのでお弁当なしです」


できる時はお弁当を持って来ているけれど、晴れない気分のせいか今日はサボってしまった。


「じゃあ、お昼一緒に食べに行かない? うちのプロジェクトのメンバー、今日はお客さんのところに行ってる人が多いから、人も少ないんだよね」


「はい。ご一緒させてください。この前連れて行ってもらったお店って、ランチもやってるって言ってましたよね? あそこに行ってみたいです」


以前国仲さんと要さんと3人で飲みに行ったお店が一番に浮かんだ。雰囲気がよくて、料理も美味しかったので、ランチも気になっていたのだ。


わたしを誘ってくれなかった、って要さんは拗ねそうだけど、仕事中は先輩優先ということにしておこう。


「ワタシもお昼は行ったことないな〜 じゃあ、あそこにしようか」





12時を過ぎて、国仲さんと一緒にエレベータに乗る。流石にこの時間は1階まで降りるのにちょっと時間が掛かったけど、お店自体は7割くらいの入りだった。


ランチは3つのメニューから選ぶことになっていて、私は季節のパスタを選んで、国仲さんは日替わりの魚料理を注文する。


「今日はお客さんのところで何かあるんですか?」


「上流工程メンバーは追加要件の確認に行ってるの。もうプロジェクトも詳細設計に入ってるから、わたしはお留守番。追加要件の方は叶野さんが纏めてくれるって言ってるしね」


叶野さんと国仲さんは、お互いの役割分担が自然にできているように私には見えていた。


ちょっと会話をしただけで、お互いの状況を把握して、それならこっちをやるからって、その声掛けだけですんなりできてしまう。


「国仲さんと叶野さんって仲いいですけど、喧嘩とかしないんですか?」


「喧嘩は時々するけど、大抵叶野さんが謝ってくるから」


「国仲さん強いですね」


「昔は叶野さんに付いて行くのに必死だったんだけどね」


「そんな国仲さん想像できません」


「そんなことないよ。都築さんを見てると、ワタシもあんなだったなってよく思うから」


そんなことを言われても私の方が恐縮してしまう。私と国仲さんではできることが天と地ほど違う。


「あの……過去にでもいいんですけど、国仲さんって、先輩や上司とお付き合いしたことあります?」


「都築さんがそんな話をするの珍しいね。詳細を追求しないっていう条件でなら、あるよ」


詳細が聞きたかったのに、先に釘を刺されてしまった。


国仲さんは恋人がいると聞いているけど、社内の人と付き合ってるって話は聞いたことがないので、今は別の人と付き合ってるんだろうか。


「えと、私の友達の話なんですけど、最近同じ会社の先輩と付き合い始めたらしいんです。でも、仕事でその先輩の足を引っ張るようなことしかできてなくて、申し訳なくて顔を合わせづらくなってるんです。その先輩が優しければ優しい程、自分の駄目さが嫌になって、一緒にいる資格なんてないんじゃないかって思ってしまって……」


「叶野さんみたいだね、その先輩。ワタシもよく叶野さんに迷惑掛けたけど、それって付き合ってても付き合ってなくても普通のことじゃないの? この業界って本読んでとか、他の人と交流してとか、独力ですごい力をつける人もいるけど、経験値な部分もあるし、先輩って後輩を導くのも仕事の内だって思ってるよ」


「その先輩は別の部門の人なので、教育的な意味では関係ないんじゃないでしょうか?」


「都築さんが考えすぎじゃない? ワタシは同じ会社の人でもBPさんでも区別はしてないよ。だから都築さんはそれは当たり前のことだって、受け入れるだけでいいんじゃないかな」


「でも、私はそれに応えられている気もしません」


「一朝一夕にできなくて当然なんだけど、それを気にしちゃうのが都築さんなんだよね。ただね。相手からしたら都築さんには笑って欲しいって思ってると思うよ。仕事も大事だけど、恋愛は相手のことを考えないと上手く行かないよ」


「はい……って、私の話じゃないです」


無駄だろうけど、一応国仲さんには伝えておく。

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