第4話 検証作業

アプリケーション側の対応工数は、国仲さんに考え方を教えて貰って私が算出して、インフラ側の対応工数も楠見さんからメールで届く。


それを合算して工数を見比べた所、暫定対応と恒久対応の工数の差は2人日だったので、恒久対応で行こうと国仲さんと相談して決める。


その後、お客さん向けの説明資料の作成をしてから、Zoomで対応内容のを説明をして、作業の承認を貰う。


今までやってきた保守作業は定型化されたものばかりで、お客さんへのこうした説明も初めてのことだった。国仲さんにサポートしてもらいながら、何とかそれをやりきる。


国仲さんは自分の作業もあるのに、いつも丁寧に教えてくれて、私の中での憧れがますます高まっていた。


保守を一緒にしていた先輩も教えてはくれたけど、部分的な指示が多くて、何をしているかわからないことがよくあった。でも、国仲さんは全体をまず説明してくれて、こういうことだからこういう作業が必要っていうのまでを教えてくれる。





会社で支給されている携帯に内線が掛かってきて、内線を使うのは社内の人だろうと電話に出る。


「お疲れ様です、楠見です」


内線番号は社内には公開されているから、楠見さんが番号を知っていてもおかしくない。でも、今までずっとメールでのやりとりだったので驚きはある。


「お疲れ様です」


楠見さんって綺麗で、明るくて、仕事もできて、リア充で、私とは生息しているゾーンが明らかに違う人だからか声が上擦ってしまう。


「検証環境のミドルウェアのバージョンアップ作業は完了しました」


今日から検証環境の動作検証作業を始める予定で、私は朝一で楠見さんがバージョンアップ作業をするのを待っていた。


「有り難うございます。では、検証作業に入ります。検証が完了したら連絡させていただきます」


「了解です。戻す必要があれば、言ってくれたら戻すから言ってください」


「戻せるんですか?」


「バックアップ取ってるから、すぐに戻せるよ」


自分のPCにソフトを入れるイメージで、バージョンアップして駄目なら、そのバージョンのソフトを消して、更に元のバージョンを入れて戻すのだと想像していたけど、楠見さん曰く、そんな手真なことはしなくてもすぐに戻せるものらしい。


「分かりました。では、何かあれば連絡させて頂きます」


電話を切ってから、検証環境に接続して、検証作業を開始する。


動作検証のために作成したシナリオを開きながら、ブラウザでアプリケーションにログインして、データを入力していく。


今保守をしているシステムは、初めの頃はお客さんの業務も知らなくて、何をどう入力すれば使えるものなのか全くわからなかった。それでも日々保守作業をしている内に、徐々にシステムの使い方も覚えて、業務も覚えて、一通りの画面操作はできるようになった。


データを入力して、画面を操作して、その結果をキャプチャしてExcelに貼り付けて行く。


その作業を繰り返して、翌日には検証作業は終了した。


見込んでいた通り、バージョンアップによる動作不具合は発生せず、このまま本番適用しても問題なさそうだった。


楠見さんに一言だけでも検証作業完了を伝えようと、昨日掛かってきた番号に電話をする。


「お疲れ様です。都築です。検証環境での動作検証が完了しました。アプリケーションの動作は問題なさそうです」


「連絡ありがとう。ログの方は確認した?」


楠見さんに言われてみて、本題を忘れていたことに気づく。


今回の対応はミドルウェアのバージョンアップをしたいじゃなくて、ミドルウェアのバグを解消したいだった。


そのバグが改善されていることが確認できなければ対応できたにならない。


「わたしが見た限りじゃ、問題なさそうだったから、都築さんも念のため確認しておいて」


「分かりました。確認内容だけ共有頂いてもいいですか? 明日以降も継続的に出ないかは見ておきます」


「分かった。後でメールで送っておくから、確認お願いね」


「承知しました」


「これからお客さん調整してだろうけど、本番適用は業務時間外になるよね? 定時後か、土日か、予定が決まったら教えて」


「定時内の作業でできなくて、すみません」


システムを停止するとお客さんの業務を止めてしまうことになるので、システムの入れ替えはお客さんが使わない、もしくは使う頻度が低い時間帯になる。今のお客さんは定時後にするのが常だったので、今回も恐らくそうなるだろう。


「都築さんが気にしなくていいよ。インフラなんて、作業が定時外なんてよくあることだし、トラブルがあれば帰れないものだから」


言われてみて、確かにシステムが稼働中に作業ができるものは限られている。アプリケーション側はそれでも設計書や開発環境で大抵のことは確認ができるけど、インフラはその環境でしかできないことも多い。


そうなると必然的にシステムを使っていない時間に作業が発生する割合は高い。


私だったら嫌かもしれない、と思ってしまって、楠見さんに失礼だなと自己嫌悪に陥る。


「有り難うございます。では、日程調整はまたメールでさせて頂きます」


「うん。待ってる」

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