第18話映像の先へ
影が差した気がしてカーテンを開ける。
期待通り隣にはコンビニが建っていた。これでいつでも買い物に行ける――なんて嬉しがるのは知人ぐらいだ。ちなみに彼からの連絡はまだない。
今日はもう寝てしまおうか? いや、もう一つぐらい怪談話をしてもいい。そうだな……絶対に寝室に出現しない話にしよう。これ以上寝室に呼び寄せるのはごめんだからね。
【映像の先へ】
これは友人の身に起きた出来事です。
友人――A子は大のB級ホラー映画好き。なんでも低予算で作られた映像の方が妙なリアリティがあって怖いらしいけど……普通に話題になっているホラー映画の方が面白いと思う。
ある日、A子は「正真正銘本物の呪いのビデオ買っちゃった! もちろんB級だよ!」と興奮気味に報告してきた。ビデオを見れる環境ないじゃないって返すと、わざわざビデオ1本見るためだけにビデオデッキまで買っていたのだから驚きだ。
A子のB級ホラー映画鑑賞会は何十回も開催されてきた。今回も退屈な映画を見ることになるんだろうなって思っていた。でも……ビデオをこの目で見た瞬間「ヤバイ」と思ったんだ。直感ってやつね。
A子曰くこの呪いのビデオは
制作費はタダ。
登場人物はみんな幽霊。
そもそもどうして流通されているのかわからない。
本物は1本しかなく、他に5本のコピーがあるだけらしい。A子が入手したのはコピーのうちの1本。それがなぜかリサイクルショップに売られていたらしい。なんでそんな意味不明なビデオを買い取ったんだろうね。
まあリサイクルショップの事情はわからないから置いといて、こうしてA子の手元にある以上「見ない」という選択肢はない。でもわたしは見たくなかった。
「ねぇ、なんかよくない気がするから止めようよ」
少し大きめの声で、いつになく感情をこめて、A子の目を見ながら訴えた。
「怖いなら見なくても大丈夫だよ。終わるまでスマホいじってたり後ろ向いてたりしてて。あ、帰ってもいいよ。感想は明日伝えるからさ」
わたしは見たくない。A子はどうしても見たい。
「……心配だから見張ってる。映像は見ないから」
A子を残して帰る気はなかった。A子とわたしは背中合わせに座って、映画を見ている間スマホでゲームをすることにした。
異変が起きたのはビデオを再生した直後。何かが起きるなら見終わった後だと思っていたから完全に油断した。
急に背中の温もりがなくなり、支えをなくしたわたしは仰向けに転がった。
A子の気配がない。体を起こしてテレビを見ると――
A子だ。A子がテレビの中にいる。
A子は雨が降る森の中にいる。日本のどこかだと思うけど、森なんてどこも似てるから場所はわからなかった。
「ちょっと! どこなのよここ! 何よこのカメラ!」
映像の中のA子は画面を力強く叩いている。こちらからは見えないけどカメラがあるらしい。何度叩いてもカメラにはヒビどころか指紋や水滴すら付かない。
「あ……A子! うしろ!」
A子の後ろには複数の、白くてゆらゆらした物体がいた。それは少しずつ近付いてきてる。
わたしはA子に白いのが近付いてきてると何度も声を出したけど、わたしの声はA子に聞こえていなかった。たぶんA子側からは声どころか姿さえも見えていない。カメラと森だけ。わたしはA子が気付くよう祈るしかなかった。
プツンとテレビの電源が落ちる音がして、画面が真っ暗になる。わたしは慌てて復旧を試みたけど、何度再生ボタンを押しても反応しなかった。
巻き戻して、最初から見てみようかと思った。
でもできなかった。
最初から見たらわたしもA子みたいに取り込まれるんじゃないか?
そんな考えが頭をよぎったからだ。わたしは友人を助けることよりも自分の身の安全を優先した。
軽蔑してくれてもいい。
友人が消えてから1時間後。わたしは帰宅したA子の母親に包み隠さずすべて話した。もちろん「この子は何を言ってるんだろう」て顔をされた。
「信じられないのなら、実際にビデオを巻き戻して見てください。今ならまだ……たぶん……A子も無事だと思うので」
一礼をしてA子の家から出た。
その日からA子の家は真っ暗なままだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。