Side Episode1(美咲 side)
「あら、おかえりなさい、美咲」
「うん、ただいま、お母さん」
台所から顔を出してくれたお母さんに、ただいまと言う。長年のルーティン。
「今日は早かったわね。電話で聞いてたけど、村川さんの家にいたのよね」
「うん、そう!」
と、早速その話題を出してくれた母親に少し驚きを覚えながらも、饒舌に話し始めようとする。
「その話も長くなりそうだし、とりあえず、手洗いうがいをしてらっしゃい」
とその話を中断させるわが母。しょうがない。手洗いうがいは私が明日も元気にゆーくんに会うためには必要な行為。と渋々自分に言い聞かせて、洗面台に向かう。
「げっ、姉貴」
「げっ、とは何よ。げっとは」
とそこにわが弟、寛太が上の階から降りてきた。陽菜ちゃんとは同い年なのに、私のことを毛嫌いというかなんというか、思春期の男の子の典型例ってな感じの子。
とある子のことは気になってるらしいが、奥手すぎて、話せないことがほぼないらしい。年頃の男の子ってな感じで可愛い。
「んで、姉貴は大好きな大好きなゆー兄に会いに行ったわけか」
「そうだよ。寛太とは違って、私は好きな人には好きって言うからね」
「…まるで俺に好きな人がいるみたいじゃねぇか」
「違うの?」
と、きょとん顔をしてやる。すると、寛太の顔はどんどん赤くなって、そして
「…いるよ」
と、ボソッとつぶやき、リビングに駆け込んだ。可愛いやつめ。
寛太のちょっとしたいじりをしたところで、私は洗面台に向き合う。
自分でこういうことを言うのもおかしいが、私はかなりかわいいと思う。
結構な人数から告白もされてきたし、友達と待ち合わせしていても、よくナンパされる。
でも、あの私の大好きな大大大大大好きなゆーくんに振り向いてくれなかったら、私のかわいさなど意味を持たない。
あの日、ゆーくんに声をかけた時、一緒に歩いてた友達には
「あの子誰?」と質問攻めされた。
まあ、その質問攻めを、私はゆーくんの魅力を語るという手段で返した。
語っている途中で、「もういい、もういいから、美咲、ストップ」とみんなに言われた。
まだ、語りきれてないのに…と心残りしつつ、その時は止めたが。
その後は、友達からはゆーくんについては、よく部活の後輩を通して聞いたことや、直接見聞きしてくれたことを教えてくれた。ゆーくんがなにをしていたとか、なにを食べたとか。
ストーカー?のんのん。未来のお嫁さん。
私はゆーくんの運命の人。私はゆーくんなしには絶対に生きていけない。
だから、私はゆーくんがあーなってしまった原因の人間を絶対に許さない。
地の果て、地獄まででも追って行って、ゆーくんの素晴らしさについて語ってやる。
そんなことは常日頃思っているわけで、そんなこと今更とは思いつつ、私は手洗いうがいを終える。
それじゃあ、今日あったことをお母さんと寛太に聞かせながら、お茶でもしようかなと思いつつ、私はリビングへ向かった
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